いち(伊賀崎 孫兵)


「今日は晴れでで気持ちがいいな」

ガタガタと雨戸を開けながら、同室のかん太は嬉しそうに笑った。
彼の故郷は、この季節に雨なんてちっとも降らないらしい。だからか昨日の大雨は落ち着かなかったらしく、青大将のきみこをずっと撫でていた。そんな風に、いつもかん太は僕のペットたちを可愛がってくれる。

初めて僕と同室になった奴は毒蛇のジュンコや蠍のジュンイチたちを見て、気味が悪いと言って逃げるように部屋割りの変更を申し出た。そいつのことは別に気にしてなかったけど、大事なペットたちを罵られて悲しかった。
その後、別の同室にとやって来たのがかん太だ。
また気味が悪いとでも言って逃げればいい。そしたら遂に一人部屋になるかもしれない。
そう思っていたけど、かん太はからりと笑って「ありゃ、蛇が。随分とべっぴんだごど」と訛った褒め言葉をくれた。かん太は、僕のペットを全く怖がらなかった。嬉しくて僕は学園にきてはじめて人に話しかけた。はじめは言葉がなかなか解らなくて苦労したけど、今ではかん太の喋りに訛りがないと違和感を覚えるぐらいに耳慣れた。

一度だけ、僕のペットが怖くないのか。と聞いたことがある。下手をすれば死ぬような毒をもつ子もいる。

「マタギのじっちゃさ育てらっちゃがら虫も蛇も、熊に比べたら怖ぐねよ。むしろ、申し訳ねぇ」
「申し訳ないってなんで?」
「あー・・・。聞いだらやんだくなるがもしんによ?」

しきりに聞いたら駄目だ、と濁すかん太から強引に聞き出すと困った様に眉を下げて、ぽつぽつ話してくれた。
蛇の毒を吹き矢として利用するためたまに狩っていたらしい。供養はしていたけど、食べるためや生きるための必要な狩りではなかったから、申し訳ないと思っている。
そんなことをジュンコを見ながら呟いた。

「だがら、申し訳ねぇと思うけんど一緒におしょうしなって気持ぢもある」
「おしょうしな?」
「ありがとうって意味だ」

そう笑ったかん太は太陽みたいに暖かかった。それ以来、僕と彼はずっと同室だ。きっとこれからもそうだ。あの時の「おしょうしな」は、きっと僕とかん太が繋がる言葉だ。僕はそれにとても助けられている。

「ねえ、かん太」
「なんだぁ?」
「おしょうしな」
「…孫兵もおしょうしなー」

雨が上がった外は照りつける太陽が眩しかった。




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