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学園にきて一週間が過ぎた。



「弥太郎や」
「はい、大川の爺様」

今日は学園に来てからのはじめての休日だ。とりあえず、今までの授業の復習でもしようとしていたら急に忍犬のヘムヘムに手を引っ張られた。ついていって見ると食堂には、大川の爺様がいらっしゃった。
おばちゃんに貰ったお茶を頂きつつ、僕は爺様の言葉に耳を傾ける。

「お主にお使いを命じる」
「はい。・・・・・え?」


・ * ・



「お、つかい・・・」

お主も知っている金楽寺の和尚に儂からの文を渡してくれぬかのぅ。文だけじゃと味気なかろう…途中で団子屋で手土産を買って行くといい。銭は儂から出すから安心せい、釣りが出たなら自分で好きなものを買いなさい。

渡されたお金と文をじぃと見つめる。
お使い、つまり外出は忍術学園に来てからはじめてだ。婆様と一緒に住んでいた場所はここから十里と一山以上離れているから、忍術学園周りの土地に対して弱い。市に降りて少し先の山に行くだけだと、大川の爺様は笑っていらっしゃったが不安だ。その旨をおずおずと伝えると案内をつけると仰り、物理的に煙に巻かれてしまった。煙玉は吸い込むと喉が痛くなることだけわかった。

「…とりあえず、着替えよ」

詳しいことなら案内する人に聞きなさい。と優しい目をして僕を見た爺様の言葉は僕のことを慮る気持ちをいっぱいだった。きっと、僕の気晴らしも含めてのお使いなんだろうな。ゴソゴソと忍装束から普段の着物へ着替えていると、部屋の外から声がかかった。

「弥太郎入っていいか?」
「え?きり丸?」

声を返すと、開けるぞーという言葉と共に障子がサッと開き忍び装束じゃないきり丸が入ってきた。

「学園長先生から話は聞いた。金楽寺に行くんだってな」
「…きり丸が案内してくれるの?」
「あぁ。バイトでよく行くからな」

弥太郎も今度やるか、バイト?と笑うきり丸にぽけっとしてしまう。
バイトってこの時代にもあるんだ…。していい歳も制限はないらしい。…バイトしたい、な。学園の学費は婆様が出してくださったけど、それでもこれから先立つものがないと困る。けれど、今はおつかいに集中しないと…!

「きり丸…」
「ん?」
「え、と。よろしくお願いします…?」

ぺこりと頭を下げると、任せとけ。ときり丸は八重歯を見せて笑った。



  ・  *  ・



じゃあ、はやく行こうと促され、忍術学園の門へ向かう。移動する間、ずっときり丸に手を引かれたんだけどやっぱり僕は迷子になるって思われてるのかな?一応、みんなとおんなじ歳なんだけど。
門の前に着くと、ででんと立派な作りにびっくりする。一度、土井先生と共に通ったけど夜だったからわからなかったけど、学園の門といい建物といい忍者の学校なのに忍ぶ気がない…。どうしてこうも派手なんだろう。
うんうんと考え込んでいると、きり丸がいない。あれ?と周りを見ると、小松田さんを連れて戻ってきた。探しに行ってくれたらしい。

「ごめんねぇ、きり丸くんに弥太郎くん。穴に落ちちゃって、中々でられなかったんだぁ」
「しっかりしてくださいよ小松田さん」

きり丸の呆れたような顔に、あはは。と笑う事務員の小松田さんは確か忍者を目指していると自己紹介で言っていた。けれど、見ているとよく転んだり、間違ったりが多い気がする。…僕が言うのもあれだけど、向いてないんじゃないかなぁ…。

「忍者って…」
「うふふ…、スリル〜」
「ひょえっ!!」

ふぅー、といきなりかけられた息にジョワッと鳥肌が立つ。なんなの!?とびっくりして振り向くと張本人であろう子がうっそり笑っていた。いま、ジョワッと!息!!

「はじめまして〜、僕は鶴町伏木蔵」
「伏木蔵〜。弥太郎で遊ぶなよ」
「つい」

ついでやっちゃうものなのか?警戒しつつ名前を言うと更にうっそり笑うものだから、最近の子は怖い。他にも後ろにいた同じように顔色が悪い子達にも挨拶をされた。

「えっと、伏木蔵に孫次郎と怪士丸それから平太…。あってるきり丸…?」
「あってるあってる」
「うんと、よろしくね?」

よろしく。とそれぞれ四人から帰ってくる返事にほっと息をつく。知り合いが増えるのは嬉しいけど、いっぺんに名前を覚えるのは一苦労だ。

「挨拶も終わったし、そろそろ行くぞ」
「うん、そうだね」
「二人とも何処かにいくの?」
「ちょっとおつかいに行くんだ。伏木蔵たちは?」
「ふふふ〜僕たちこれから日陰ぼっこするんだ」

今度、弥太郎も一緒にしようね。笑う伏木蔵と指切りをして、僕ときり丸は門の外へ出た。



はじめてのおつかい。


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