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今日から、忍術学園の生徒になりました。



「うわぁ・・・!」

早速、朝早く起きて近くの井戸で顔を洗ってさっそく空色に染め抜いた装束を着てみました。やっぱり、おろし立ての着物は気持ちが新しくなっていい。

―とんと解らぬ人生にするでないぞ―

「婆様・・・」

もうすでに解らないものばかりです・・・。沈んだ思考に思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。昨日知った真実は余りにも突飛であの後、放心してしまった。


忍術学園。


つまり、忍者の学校。
こんな戦乱な世だから忍者がいて当たり前だろうし、その学校があっても不思議じゃない。けれど、頭で納得しても、この小さな身体じゃあ不安でいっぱいです。

「…うまくやっていけるかな」

ふぅ、と深呼吸をして不安を新しい空気と入れ換える。大丈夫。大川の爺様も土井先生もいる。婆様だってこの胸にいらっしゃる。



  ・  *  ・



「新しくは組に入ることになった近嵐弥太郎だ。昨日来たばかりだから知らないこともあるだろう。なにかあったら助けてやるんだぞ」

顎髭が男らしい山田先生のお言葉に、は組のみんなは元気よく返事をした。その中に昨日の三人も混じっている。あぁ、よかった。知ってる子がいる。人見知りではないけれど、はじめての場所に知っている人が居れば心持ちは違う。

「おはよう弥太郎」
「よ、昨日ぶり」
「おはよーお腹が空いたね〜」
「「それはしんべエだけ」」

紹介が終わった後、すぐに声をかけてくれた三人に微笑ましくなって、くすくす笑う。
昨日は、話もろくに出来ず終いだったから、気を悪くしてしまったと思っていたけれど、杞憂だったみたいだ。安堵の笑みを浮かべると、ワッとみんな集まってきた。

「どっから来たの?」
「なめくじさん好きー?」
「どうして転入してきたの?」
「からくりに興味ない?」
「それより馬だろ!」

わーわーと質問が嵐のように飛び交って勢いに押されてしまう。
ひ、一人ずつで…なんて言っても、僕の声じゃあ聞こえないみたい。いっぺんに色々な言葉が耳に入ってきて思わず引いてしまう。助けてほしい、と神頼みのように願うと、ぱんぱんっと手が鳴って、さっきの騒ぎが嘘のように静まった。

「はい、一旦みんな静かにしようね」

振り向くと、利発そうな顔立ちの子が冷静にこっちを見ていた。まさに鶴の一声。
すごいなぁ…と尊敬の眼差し投げ掛けると、場を整わせるように一つ咳払いをして口を開いた。

「僕は黒木庄左衛門。よろしくね」
「あ、えと、僕は、近嵐弥太郎。よろしくね」

みんなは何ていう名前なの?と周りの子達を見ると、それを皮切りに、みんなが順々に自己紹介をしてくれた。11の顔と名前を頭に入れ、改めてよろしくねと言った。



  ・  *  ・



あれから、時間はすすみ昼時になった。
意外に厳しい授業に、ひぃひぃ言いながらなんとか乗りきった。前に婆様から言われていたが、僕は本当に体力がない。今まではさして問題は無かったけれど、忍術学園で生きていく分には不便だろう。しばらくは、体をつくる事からはじめよう。
小さい手を握りながら決意していると、庄左エ門と伊助が声をかけてきた。

「弥太郎、一緒に食堂でランチを食べよう?」
「早くしないとなくなっちゃうよ!」

ぐいっと手をとられ、右は庄左エ門、左は伊助と手をつながれた。
……僕、迷子にでもなるって思われてるのかな…?実際に、校庭から食堂までの道のりを知らないからありがたいけど、十歳ぐらいだとこんなにスキンシップ多かったっけ?
アッチにいたときの幼い自分を思い出そうとしたけれど、二人がほら、と急かすから考えが途切れてしまった。

「着いたよ弥太郎」
「あ、うん…」

もんもんとしている内に、食堂に着いていた。いまだに手は繋いだままだけど…。

「ねぇ、弥太郎はAとBどっちにするの?」
「ちなみにAが焼き魚。Bが生姜焼きだよ」

前に並んでいた、兵太夫と三治郎が親切にもランチの内容を言ってくれた。選択式なんだね。みんなどれにするか決めているなかで、僕は焼き魚がいいなぁ、と零すと後ろにいた団蔵が叫んだ。

「おばちゃーーーん!!Aランチが五つとBランチ七つ!!」
「はいよー!!」

うわっ声おおきいな…と少し肩を揺らすと、なんだか喧嘩腰な言葉が飛んできた。

「ふん。は組の奴はデリカシーもないのか」

声の方を見ると、気の強そうな表情をした子がいた。



波乱の予感

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