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三日三晩の長い旅路が終わり、僕は小さなお爺さんの前に座っていた。



「夜分遅くによく来たのぉ弥太郎。久しいが元気そうで何よりじゃ」
「お久しぶりです、大川の爺様」

両手をついて頭を下げると爺様は、立派になりおって。と頭を撫でてくださった。

そう、あれから土井さんに連れられて来たところは摂津の大川の爺様の所だった。

詳しく話を聞いてみると、婆様がもしもの時は引き取ってくれろと大川の爺様に頼んでいたらしい。初耳だと言えば、大川の爺様はふぉっふぉっふぉっと大袈裟に肩を揺らした。
どうやら僕は学校に入るみたいだ。
学校の仕組みは知っているけれど、何を学ぶ学校なのだろう?僕がいたトコロは一般的な知識しか学ばなかったけれど、時代が違ければ知識も違うだろう。

なんだろう・・・凄く不安だ。

うんうん唸っていると、大川の爺様はもう遅いから寝なさいと、僕を土井さんに頼んだ。全寮制だから、この学校の一部に住まわせていただけるとのことだ。なんてお金持ちな学校なんだろう…。
御休みなさい。と挨拶をして庵をでて、ほの暗い廊下を土井さんに案内されながら歩いた。

「ここが教員長屋だ。何かあったら来るといい」
「はい土井さん」
「そうだ、弥太郎君お腹は減っていないか?」
「だいじょ、」

こんな遅くにご飯をねだるなんて失礼だと思い返事をすると、被せぎみに腹の虫がぐぅと鳴いた。恥ずかしくって、わたわたしてると土井さんは笑って食堂に案内してくれた僕、土井さんに笑われてばっかりだ。

「すまないね、お握り位しか出せずに」
「い、いえ。お構い無く!」

だいたい夜分遅くにご飯を食べたがった僕が悪いのだから。深いお辞儀をして、皿に乗った塩握りを受け取る。お食べと目の前に座った土井さんが柔らかく促した。一口食べると、とても美味しくお腹が空いていたんだと改めて実感した。もう一口と詰め込む。

「ほら、別に急かしてないからゆっくり食べなさい」
「あ、ありがとうございます」

湯飲みを渡されて、そんなにがっついて見えていたのかな、と思い今度は味わうように食べる。塩加減が丁度よく、お米が柔らかくほぐれる。土井さんはお料理が上手なのですね。と言うと苦笑気味に微笑んだ。


「あーーーっ!!!お握りだ!!」
「えっ」


いきなり聞こえた声にびっくりして、思わず持っていたお握りをぼとりとお皿に落としてしまった。声の方に慌てて振り替えると、僕と同じぐらいの子が三人いた。

「しんべエ!気付かれちまったじゃねーか!!」
「お握りー!」
「こら、ダメだってっ!」

ふくよかな子が、眼鏡の子とつり目の子に抑えつけられている。ふくよかな子は僕のお握りを見て涎を垂らしている。え、と…そんなに欲しいなら、あげるよ?とお握りを持たせてあげると幸せそうな顔でパクッと一口で平らげてしまった。すっ、すごい…。

「もう!しんべエは食い意地はってるんだから」
「えへ〜それ程でも」
「誉めてねぇーっつうの」

まるで息の合った漫才を見せられているみたいで、パチクリと目を瞬かせた。きっと学園の生徒なんだろうな。いいな、今まで同世代の子の友達はいなかったから、仲良くなりたいなと思った。

「しんべエ、弥太郎君のを取っちゃ駄目だろう?」
「ごめんなさーい土井先生」
「・・・ん?」

先生?誰が?あ、土井さんかぁ。………えっ。

「土井さんは、先生でいらっしゃったんですか?」
「あ、あぁ……」
「え?」

あれ何だろうこの空気は。三人は土井先生の隠し子じゃないみたいこの子。転入生かもよ。なんてヒソヒソ話はじめて、土井さん…もとい土井先生は困ったような呆れた顔をしてる。

「別に隠している訳じゃなかったんだが、結果的に言わず終いで…」
「いえ、ちょっと驚いただけです…すいません」

確かに先生って感じがするもんなぁ。大川の爺様の所の人だから、必然的に学園の関係者だろうに頭が回らなかった。納得していると、つり目の子が僕のことを見てきた。ちょっとドキッ。

「ところで!土井先生、誰っすか?そいつ」
「きり丸指を差さない。彼は転入生の近嵐弥太郎だ」
「ど、どうも」

じぃーと三対の目に見つめ居心地が悪い。でも反らす訳にはいかないから、僕も見つめ返すと三人はにこりと笑った。

「ようこそ!忍術学園へ!」



待って忍術ってどう言うこと?

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