君を想う | ナノ
 12



 「おはよ、児玉」

 「お、おはよう湊――― それに望」

 やっぱりいるよなぁ...いつも2人で、さ。
 授業が終わり今は休み時間。チャイムが鳴ってすぐに湊と望が目の前に現れた。

 「おはよう!啓吾、那智、優也!」

 望は輝かんばかりの笑顔を俺たち3人に向けてくる。

 「おはよう望」

 望のあいさつに啓吾は笑顔を向け、優也は無表情で無言だった。
 最近はこんなことを何度も繰り返している。啓吾も前とは違い、自分の席に着いていることが多かった。
 まぁ、正しくはどこかへ行く前に望たちが来て啓吾を囲むからだが。

 ちなみにそれもあって那智は啓吾と2人きりになれる機会が無く、後ろの席だというのに未だに啓吾とはまともに会話をしていない。

 「そういえば、学校祭近づいてきたよな!今日各クラスで出し物とか決めるんだろ?俺、めっちゃ楽しみ!」

 「転校してきてすぐに学校祭って、望も忙しいよな」

 「あぁ、本当行事づくし!那智は何かやりたいのとかあるのか?」

 さりげなく望の会話にコメントをいれると、望は啓吾の方を向いていた顔をこちらに向け話題の続きを振ってきた。

 ―やりたいこと...ねぇ。....まぁ、とりあえず

 「俺は騒げればそれでいいって感じかな。今年もまた啓吾とバカやって...ぁ、」

 那智は今、自分自身で言った言葉にハッとして口をつぐんだ。
 今の那智と啓吾の仲ではそんなこと...できる状況ではない。

 すぐに啓吾の方を覗き見るが、啓吾はムスッとした表情で外の方を見ていた。

 ...啓吾は嫌、だよな。なんか理由はわかんねぇけど、俺、啓吾に嫌われちゃってるっぽいし。

 「ん、どうかしたのか?」

 するとそんな那智の様子に望は不思議そうな顔をする。

 「ぁ、大丈夫!大丈夫!今日は暑いからちょっと意識が飛んじゃってさ」

 あははっ、と誤魔化すように笑えば「確かに最近暑いもんなぁ」と望も同調する。そして湊はこちらを見てクスクスと笑っていた。

 ―あー、湊が俺に笑顔を向けてる...なんて、こんなことで喜んでる俺って、本当単純。



 「はい、それではこれから学校祭でのクラスの出し物などを色々と決めていきます」

 教卓の前には学級委員長が学校祭についての説明をしていた。そして出し物は何がいいかというアンケートをとるために全員に紙が配られた。

 出し物かぁ...俺的には盛り上がるのがいいから...うーん、とりあえずカフェ系はなしかな。

 啓吾はなんて書いているんだろう。あぁ、でも無記入もありっていってたから何もかいてないかな。

 ―あー、啓吾と話し合いたい。

 周りを見れば、みんな仲のいい付近の友人たちとザワザワと話し合っている。
 そんな姿を見ていいなぁ、なんて羨ましがったりしている俺。

 だけどなんだか、啓吾を1人おいて他の友人たちと話し合うのが嫌で、1人もんもんとどうしようかと考える。

 ―うーん...カフェ系はなしで、盛り上がれるので...ぁ、あと最近暑いから涼しげなこと。
 ...って、この条件ならあれしかないじゃん、

 「あははっ、那智顔が怪しげだぞ。なんだよ、そんないい案でも思いついたのか?」

 ちょうどその時、そんな那智の様子に気がついた近くの友人数名が話しかけてきた。

 「おう!俺さ、お化け屋敷がやりたい!」

 俺は笑顔でそう、はっきりと答えた。

 「お化け屋敷?あ、それいいじゃん!」

 「那智はそれがしたいの?なら、私もお化け屋敷に1票!」

 「俺も那智の意見に1票いれるぜ!」

 「私たちもー」

 すると那智の声が思いの外、大きかったのかそれを聞いたクラスの友人たちは皆、同意する声を上げて言った。

 自分の意見がすんなりとクラスで受け入れられ、思わずガッツポーズをとる。

 「えーと、それではアンケートをとろうと皆さんに紙を配りましたが...それは不必要みたいですね。今あがっているお化け屋敷という案。これでみなさん、よろしいでしょうか?」

 再び委員長は教卓の前に立ち、そう問う。それに対しクラスのほとんどの人が賛成、と声を出した。

 「わかりました。では2‐Aでの出し物はお化け屋敷ということで話を進めていきましょう。皆さんに配った紙は一応、予備の案として見たいので集めていきますね」

 委員長はそういい皆の歓声が響く中、教室の中を回って紙を集めていく。そして委員長が那智のいる列にきて、後ろの方から集めてきた。

 「お化け屋敷、頑張ろうね」

 「あぁ!がんばろうな」

 委員長は那智の前で足を止め、にっこりと笑ってきた。

 「はい、これ...――― ぁ、」
 
 一言いい、紙を委員長の手元にもっていった時、たまたま那智は委員長が集めていた紙の、一番上のものに書かれている文字を見て驚いた。

 「どうかした、那智?」

 「ん?いや、なんでもない!ごめんごめん、」

 慌てて委員長にそういい、なんとか自分を平常に戻した。
 
 ―あの前にあった奴って、啓吾の...だよな、

  見慣れた文字。右上がりの、少しクセのある...

 でも、今の啓吾があんなこと書くか?

 “那智と同じの”

 たしかに、そう書いてあった。いや、でも委員長が集めた紙を上にではなく、下の方に重ねていってたら...俺がみたのは啓吾のものではないが、

 ―だけどもし...もし今のが啓吾のなら、

 「嬉しい、かも」

 那智はある可能性が見えた気がした。
 それは俺と啓吾がまた前のような関係に戻れるのでは、という可能性。

 それをみつけた那智は小さな希望を実らせた。

 啓吾が望まない可能性だとも知らずに。



 「那智ー!ちょっとこの紙、職員室に届けてきてもらってもいい?」

 「おっけー」

 クラスの友人に言われるまま那智は数枚の紙を受け取り、教室を後にした。
 出し物が決まって数日後、那智のクラスではさっそく学校祭に向けて準備作業が行われた。

 学校祭も2度目となり、気合いが入った皆は盛大なお化け屋敷をつくろうと張り切っている。
 そんな皆の姿を見てるとこちらも何だか楽しくなってきて、ついこないだのあの啓吾との出来事は全部嘘だったのでは...なんて考えが出てきてしまう。

 そんなことありえないのに。

 「失礼しましたー」

 友人に頼まれた紙を担任に渡し、作業に早く戻ろうと職員室を足早に後にした。

 「 児玉? 」

 そして教室に向かって歩いている時、どんなに聞いても飽きないであろう声が俺の名前を呼んだ。

 「あれ、湊じゃん」

 声のした方を見るとそこには何やら荷物をたくさん持っている様子の湊がいた。
 那智は駆け足で湊の方に向かい、隣を歩く。

 「買出しにでも行ってたのか?そんな荷物持って、」

 「あぁ、うん。那智の次はクラスにパシラれた」

 湊は冗談めかしてそういってきた。「お前がパシラれキャラかよ、」なんてツッコミを入れ、自然に肩をたたく。

 「そう言えば望は?一緒にいないなんてめずらしい」

 ―まぁ、そのおかげで俺はテンションが下がることなく湊と接しているのだが。

 「望は教室でなんか作ってる」

 湊はどこかつまらなさそうな顔をして、そう言った。多分、望は湊と同じクラスだが作業に集中して湊にはかまってくれないのだろう。
 きっと湊はそれが不満なんだ。

 「そっかぁ、」

 なんだか急に気分が下がり、その一言で口を閉ざしてしまう。
 やっぱり俺って単純かも。

 「お前、清水となんかあったのか?」

 「え...」

 すると急に湊はそんなことを言ってきた。まさか啓吾とのことを言われるとは思わなかった俺はビクリと肩が揺れてしまった。





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