君のため | ナノ
 6 永妻side





 「どういう...ことなの、」

 感じていた胸のざわつき。突然、弥生から朝の迎えはもういいと言われた。お昼も一緒に食べられないと言われた。―――まるで、僕のことはもういらない、というかのように。
 だがそれも翌日学校に行き、理由を理解した。

 「あーあ。愛都君のこと狙ってたんだけどな、残念」

 「でも、2人並ぶと絵になる...悔しいけどお似合いってやつ」

 「似合ってなんかない!!!」

 近くにいた2人の男子学生に異論をぶつければ、驚いた顔をしてその場から離れていった。
 少し離れた先にいるのは、沙原と愛都の仲睦まじい姿。怪我をした沙原をいたわるようにして愛都は甲斐甲斐しく世話を焼いている...―――そう、2人は付き合っていたのだ。

 沙原の怪我の理由が綾西によるものだと聞いてはいたが、当の本人は何らお咎めはなかった。
 そんな綾西に怒りが沸くが、それ以上に愛都に対しての恨みが強くなっていた。
 自分の幸福を奪っていく愛都。自分は何もしていない、ただ身の丈をわかっていない人間を排除しただけ。それの何が悪いのかが永妻はわからなかった。

 誰かの不幸があるから自分の幸せは生まれるのだ。何事も対象のものがないと成立しない。比べるものがあるから優劣をつけることが出来るのだ。
 愛都の弟である宵人は自分よりも劣っていた。容姿も何も考えずに沙原に近づいたのが悪いのだ、と。警告したにも関わらず、姿を消さなかったからだ、と。

 「兄弟そろって最悪過ぎ。性根腐ってんじゃないの、」

 自然と出る舌打ち。

 沙原の瞳には愛都が写っていた。このままではとられてしまう。

 「おいたが過ぎる子にはお仕置きだね」

 邪魔な存在。綾西と香月の2人をうまくそそのかしたというだけで鼻を高くしてる嫌な奴。

 ― 僕は絶対不幸になんてならない。僕にあるのは幸せだけ。皆僕のために不幸になってしまえばいいんだ。弥生も騙されてる、あの悪魔と一緒に居たらきれいな弥生の身も心も汚れてしまう。
 離れているのに、空気が汚れてるように感じた。それはまるで肺まで犯されているような気持ちの悪さ。

 「今時、復讐とかありえないし...――― 上手くいくわけないじゃん、僕は幸せ者なんだから」

 冷めた瞳で2人を見続ける。同時に永妻は頭の中で何度も愛都を殺し続けた。







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