▽ 皆無
リクエスト小説(叶江×愛都/執着/束縛/暴力/流血)
ぐわぐわ、と回る視点。頭への強い打撃で飛んでいく意識。
― クソっ、こんなところで...俺は、
床へと倒れていく体はスローモーションのようにゆっくりと傾いていくように感じた。
その一瞬の間。つい数十分前の出来事が頭の中を遡る。
ドン、と倒れたその体に自由は利かず、ついに愛都の意識は暗闇に包まれた。
――
――――
――――――
「雨か...」
ポツリポツリと降り始めた雨は点々とした水滴で窓を覆い尽くしていく。
どんよりとした暗い天気を嫌い、顔を曇らせる人は多いが俺にはこのぐらいの天気の方が好ましく感じる。
授業も始まり静まった廊下。向かう先は今はもう使われなくなった旧体育館の器具倉庫。
3時間目の授業が始まり次第器具倉庫に1人で来るようになどと書かれていたそれは、いつもなら相手にもしないような手紙。
しかしこないだの不良たちのような使える人間がちょうど欲しかった俺は、いい機会だと思いこのバカな誘いにのった。
誰が何のためにこんな呼び出しを俺にかけたのかは分からないが。
熱狂的な沙原たち、誰かの信者か。それとも前にも俺に利用され、恨みを持った奴か。
思いつく人物は何人かいた。
― まぁ、誰が居ようと訪れる結果は変わりやしないが。
状況が悪ければ綾西を呼べばいい。綾西がいる教室から器具倉庫までは走れば5分もかからないい。
すでに何処に俺が向かうかも伝えてある。俺からのワン切りか何かがあればすぐにここに来るようにとも命令した。
だが、できるだけ1人で済ませてしまいたい。
綾西を呼ぶと多少なりとも事が大きくなってしまうリスクがある。
普段は何もできないあいつだが、俺のこととなれば何をするかわかったもんじゃない。
だから綾西を呼ぶのは最終手段だ。
「さぁ、今度はどう対処してやろうか」
暴力かそれとも強姦か。知ってる奴なら精神面から脅してやろう。
― ストレスも溜まってたんだ。発散も兼ねて徹底的に追いつめてやろう。
激しくなってきた雨音を耳で聞きながら、俺はゆっくりと歩き続けた。
「は?...どうなってんだ、」
呼び出された場所についた俺はまず、唖然とした。
...なぜならそこには何かで殴られたのか気絶している男子生徒3人の姿があったからだ。
予想外の展開に俺は頭を悩ませた。
― 一体誰がどんな目的で...
あたりは静まっていて、自分と倒れている男達以外に人気はない。
きっとこいつらを殴った奴はすでにここにはいないだろう。
案の定、ガラリと開いた窓から外をのぞけば雨でぬかるんだ地面に残る足跡が見えた。
それは長く、奥の方まで続いている。
「あぁ、これじゃあ発散できないな」
床に寝そべるようにして伸びている奴らの顔と学年、クラスを確認してため息をする。
― 誰だか知らないが余計なまねをしてくれたものだ。
落胆する気持を抑え、とりあえず窓を閉めるために雨音のするそこへと足を向けた。
― ドカッ!!
「ぅぐっ、」
突然脇腹に走る痛み。僅かに顔を向け確認できたのは自分の脇腹に食い込むようにしてあたる木製のバットの先端。
横からの打撃に体はよろけ、バランスを崩す。
「千麻君...千麻君千麻君千麻君」
ドロで汚れた靴。前身は雨でずぶ濡れの男が1人、こちらを見てにたりと笑っていた。
「いつの間に...っ、」
「やっと2人きりだ。あぁ、逃げちゃダメだよ。」
入口の方に目を向けた瞬間、目の前の男は阻止するかのようにバットを俺に向かって振り下ろした。
それに対し脇腹が痛むもののなんとか避ける。
「うーん、残念。」
「...あんたがやったのか、」
「うん、そうだよ。だってこいつら僕の望みを邪魔しようとしてきたんだ。わざわざ僕の後を追っかけてきてさ。だから殴った。
そしたらタイミング良く人の足音が聞こえたから窓から逃げだけど...もしかしたらと思って、戻ってきて正解だったな。」
入口の方は足跡を残すようにして落ちている泥で所々汚れていた。
窓から逃げておいてわざわざ外を回って中に入ってきたか...
特に特徴もなく、普通の男子高生に見える目の前の男。相手が気絶するほど殴るような奴には見えなった。
「そこまでして叶えたかったあんたの望みって、何?」
気を逸らしているうちに綾西に連絡をしようとこっそりと携帯の入っているポケットへと伸びる手。
「僕の望みは千麻君と一緒に死ぬことだよ!」
明るい口調のそれに思わず俺は携帯のボタンを押す手を止めてしまった。
その瞳はあいつとよく似ていた。ゾッとするほど暗く、歪んだ瞳。叶江と瓜二つのその瞳に目を奪われ、愛都の思考は一時停止する。
「ずっと考えていたんだ、千麻君のこと。好きで...好きで好きで好きで。だけど親の会社が倒産しちゃって、僕ここにいられなくなったんだ。でも僕は千麻君と離れたくない。ずっと一緒にいたいんだ。」
うすら笑いを浮かべる男は俺から1ミリたりとも視線をずらすことなく、1人語りかける。
男に隙ができた。それなのに俺の体は動かない。
その瞳から視線を逸らすという行為に対して恐怖が生まれつつあったからだ。
心の奥深くに刻み込まれたトラウマが胸を締め付け呼吸を乱す。
「だから、一緒に死のう。そしたら僕たち、ずーっと一緒だよ。ねぇ、千麻君もそうなったら嬉しいでしょ。」
「大丈夫。あまり苦しまないよう、気絶した千麻君の喉をこれで掻っ切ってあげるから。」スッと男がズボンのポケットから出したのは小型のナイフ。喉を掻っ切るには十分の鋭さがあった。
「っ、」
言葉は出ない。いつもの冷静な判断ができない。
落ち着いて、まずはこいつを説得すればいい。そうして時間稼ぎをしてその間に綾西をこちらに走ってこさせる。
そうすることが一番だ、とわかっていても行動に移すことができない。
ただただこの場から逃げ出したい。あの瞳から逃げたい。そのことばかりがグルグルと頭の中を駆け回る。
「わかってくれた?...―― だったら、動かないでじっとしてて、っ」
再び振られるバット。頭を狙ってきたのであろうそれを俺は反射で避ける。
「...ぁっ、」
しかし、避けた先にあった器具に足元をとられ、バランスを崩したさいに持っていた携帯を落としてしまった。
落ちた携帯はスルスルと滑り、後ろの方へと行ってしまう。
急いで携帯を拾い上げようと男との距離を確認して重い足を動かし駆けだした。
このまま綾西に連絡をとろう。それに上手くいけばこのまま入口の方まで走って逃げることができる。
視線が向かう先は床に落ちた携帯とその先にあるここを出るための扉。
― 逃げるのは本望じゃないがこんな状況じゃ、しょうがない
ドクドクと五月蠅くなる心臓。少し体を屈め、手に取るのは目的のもの。
そして次に向かう先は....
「う゛っ...!!」
ガッと突如後ろから襲いかかる打撃。頭を強く殴られたせいで、俺の体は前のめりに倒れていく。
意識はハッキリとしなくなり、視界はかすむ。
「さぁ、いっしょに死のうか」
最後に聞こえたのは歓喜に満ち溢れた男の声だった。
「...っ、」
目を覚ました瞬間、訪れたのはズキズキとした頭の痛さだった。
― 俺は...――― っ!
数秒もしないうちに愛都は状況を思い出し、思考を覚醒させる。
今自分がいる場所は最後に倒れた場所と同じで、動かされた気配はなかった。
そして考える間もなく聞こえた肉を打つ音に肩をビクつかせる。
「...ぁ、かな...え、」
振り向いた先にいたのは血で手元を汚した叶江の姿だった。
無表情で機械的に拳を振っては何かを殴り続けていた。
「う゛...っ、」
視線を下げた愛都は一瞬にして顔をひきつらせた。
叶江に跨られて殴られているそれ。顔と制服の胸元を血で赤く染め上げているのは...ピクリとも動かないのは先程まで俺に襲いかかってきていた男。
俺が倒れてから今までどれだけの時間が経ったのかは分からない。
だから、もしかしたらすでに死んでしまっているかもしれない。
過剰な...いきすぎた暴力をふるう叶江に恐怖しながらも、なんとか俺は立ち上がり近づく。
「や、めろよ...そいつ、もう...――ぅぐっ...!!」
肩に手を置き、声をかければ鋭い眼差しを向けられ頬を殴られた。
「死んで、俺の手から逃れようとでもしたか。」
「は?何言って、」
床に倒れる俺の動きを止めるようにして叶江は跨り、体重を乗せてくる。
「俺の許可なしに死ぬなんて許さない。殺されかけたんなら抗え。相手を殺してでも。...お前の全ては俺のものなんだから。」
「なっ、ふざけるな。誰があんたの言うことなんてきくか...っ!俺は俺の意志で――― ん゛んっ、ふ...ぅ...っ!!」
愛都の言葉を遮るかのようにして塞がられる唇。荒々しく口腔を蠢くそれに息が詰まった。
そうして息苦しさで快感は薄まり、犯されている、という感覚が渦巻く。
「ふっ、う゛...ん、ん゛...っ、」
舌を押し出そうとすれば、逆に絡め取られ痛いほどに吸われる。流れ入ってくる唾液は反射で飲み込んでしまった。
それでも飲みきれなかったそれは口の端から外へとつたう。
唇を弄られ、吐き気がするほど口腔を犯され蹂躙された時、漸く叶江は愛都の唇を解放した。
「お前の意思なんて関係ない。この髪も、目も鼻も口も...体も、俺のものだ。」
自らの唇を舐め、叶江は三日月のように目を細めた。
そこからの行動は早かった。
乱暴にズボンと下着を脱がされ、指一本でお座なり程度にほぐされたそこに無理矢理熱く昂ったそれを突っ込まれた。
頭を床に押し付けられ、擦れる頬。狭い器具室に響くのは愛都の苦悶じみた悲鳴だった。
「ほら、あいつにもお前は俺のものなんだってことを教えてやらなきゃな」
そう言って叶江は死んでいるのか生きているのかもわからない男の目の前で散々に愛都を犯す。
嫌がれば殴られたせいで体中にうっ血の痕が散らばっていた。
叶江は愛都の血と自身の精液で濡れた穴を荒々しく、自らの欲望のためだけに掻きまわす。
当然のことながら快感など生まれず、揺さぶられるたびに虚しく上下に揺れる愛都のそれは萎えたままだった。
目を開ければ腰を高く抱えあげられて赤い筋を流すそこが見え、いたたまれなくなった俺は視線を逸らす。
口から出るのは嗚咽の声と悲鳴染みた声。そんな状況でも叶江は満足気に体に口づけては痕を残していった。
殴られた頭部が、叶江に責めたてられるたびに床に擦れズキズキと痛む。
まともな思考なんてできるはずもなく、視界は涙でかすむ。
「逃がしてなんかやらない。次、俺の目の前から消えようとしたら、その時は一緒に死んでお前の自由を奪って永遠に俺の手の中に閉じ込めてやる」
クッと軽く絞められる首。今、殺されないとわかっていても過去のトラウマ...叶江に監禁されていたことを思い出し「ヒッ、」と俺の口からは情けない声が出た。
「今も死んでからもずっとお前は俺から逃げることなんてできない。分からないなら分からせてやる、じっくりとな。あの時のように、」
ガタガタと震える体。
溢れるように流れ出る涙は悔しさからくるものか。それとも目の前の男に与えられる絶望からくるものか。
何が原因なのか考えていたくなくて。
現実を見ていたくなくて。
全てを拒絶するかのようにして瞼を閉じれば、熱い舌でとめどなく流れる涙を舐めとられた。
「お前は俺のものだ。なぁ、そうだろう?」
耳元で囁かれる声。
トラウマによって恐怖の闇へと堕ちた愛都は虚ろな瞳を叶江に向ける。
そして肯定するかのように....
近づく叶江の唇に、貪りつくようにして口づけた。
end.
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