▽ 願望
リクエスト小説(叶江×愛都/執着/(微)流血表現有り)
「まーなと。喉、乾いてない?何か飲むなら買ってきてやるよ」
「...別にいらない。たいして乾いてないし」
「ふーん。あっ、腹は空いてない?」
「ここに来る前に食べてきたからいらない」
ソファに座る愛都の横に腰掛け、肩に腕を掛ける叶江は先程から崩れることのない完璧な笑顔を愛都に向けていた。
それだけでも日常とはかけ離れた様子の叶江だが、それに加え今日の叶江は妙に愛都に対して優しく、その態度が正直薄気味悪く感じていた。
普段とは真逆の人間。何か企んでいるのではないだろうか、と晴れることはないであろう疑いばかりが頭を埋めつくす。
「じゃあ、何かしてほしいことは――― 」
「そんなことより、俺を部屋に呼んだ要件は?俺だって暇じゃないんだ。さっさと言ってくれ」
まだ気味の悪い優しさを向けてこようとする叶江の言葉を遮り、その笑顔を一瞥する。
この態度で少しはその笑顔も崩れるだろう、そう思っていたが、未だ笑顔を崩さず「ははっ、愛都冷たいなぁ」なんて言って叶江は俺の嫌味を軽く流すだけだった。
「要件なんて特にない。しいて言うなら、愛都と一緒にいたかったから、とか?」
「...うざ」
その瞬間、体中に鳥肌が立った。その気持ち悪さに驚く。
これ以上は付き合ってられない。
俺は肩にある叶江の腕を払い、立ち上がった。
「 帰る。」
「えー、帰るの早くない?まだ全然話してないじゃん」
そう言う叶江の言葉も無視して、愛都はそのまま部屋を後にした。
――
――――
――――――
それから数日。
― またかよ...
携帯に映し出される、同じ送り主からの大量のメールと電話。
それはもう、優しさに溢れている内容ばかりで反吐が出そうになった。
毎日飽きることなく続けられるそれに愛都はうんざりし、携帯の電源を切る。
切る直前に見たメールは呼び出しのものだった。
今まではうざいと思いながらも毎回呼び出されるたびに叶江の部屋に行っていたが、どれもこれも大した用事ではなく、相手をしろというものばかり。
特にセックスをすることもなく、ただただ気持の悪いあいつの話し相手になるだけ。
どうせ今回もその類だ。そろそろ俺も限界が近い。
叶江に何があったかは知らないが、あの優しさは異常だ。
「愛都君!どっかに行くのー?」
「あぁ、沙原君。いや、ちょっと散歩」
休日の午後。叶江からのメールも無視し寮を出ようと、玄関で靴を履いていれば明るい声に動きを止められた。
「散歩かぁ、いいね!んー...よかったら、僕も一緒に良いかな?」
いつもはうざったらしく感じていた沙原だが、叶江のことがあったせいか話していて嫌な感じはしない。愛都は笑顔で了承し、そして沙原の手をとるとその華奢な手を優しく握った。
――
――――
――――――
「あれー?あそこにいるの、恵君じゃない?」
しばらく外を歩き、日も暮れてきたところで来た道を戻っていれば、沙原は大きな目を細くして遠くを眺める。
「...あぁ、本当だ」
沙原が見ている方向を見ると、寮の玄関の入り口に立つ、叶江の姿があった。
― まさか、俺を待っているのか...
その考えは決して自意識過剰ではないはずだ。
それを証拠に帰って来た愛都の姿を見つけた叶江は、視線をずらすことなくじっとこちらを見つめてくる。
「愛都君のこと、待ってるんじゃない?」
「...そうかもな。でも俺、今、恵君とちょっとケンカ中なんだよね、」
「え、そうなの?...愛都君もケンカとかするんだね」
「ふふっ、俺だって人間だからね。とりあえず、今はそういうことだから、少し距離を置いてるんだ。」
「そっかぁ...」
叶江とケンカをし、距離を置いているといえば、どこか嬉しそうな顔をする沙原。
愛都は目線を逸らしその様子に気がつかないふりをする。しかし、そうしている間にも縮まるあの男との距離には気がつくことができなかった。
「 愛都 」
聞き慣れた声に呼び掛けられる。それでも愛都は見向きをせずに横を通り過ぎようとした。
「 待て 」
パシリ、と掴まれる腕。そのせいで歩みは止められる。
「悪いけど、疲れてるんだ。部屋に戻らさせてもらう」
掴まれていた手を払い、立ち尽くしている沙原の手をとって寮の中に入る。
沙原が目の前にいる手前、あまり強くものは言うことができないがそれでも、目も見ることなくハッキリとした拒絶の意思を向けた。
そして部屋に入るまでの間、俺は叶江のいる後方へ一度も振り返ることなく歩き続けた。
「...っ、ん゛っ、ん゛ん―――っ!!」
突如訪れた激しい痛みに、俺は飛び起きるようにして目を覚ました。
上がった悲鳴は何かで口元を塞がられているせいで、くぐもったものになる。
部屋の中は薄暗く、何が起こっているのか状況が掴めなかった。
しかし、それも一瞬のこと。すぐに訪れる下半身への律動と、荒い息遣いで今、自分が何をされているのかがわかった。
熱く、固い昂りは、慣らされていない穴の中を抉るようにして奥へ突き進んでは、ギリギリまで引き抜かれ、そして再び挿入される。
そのあまりの痛さに目に涙を浮かべ叫び声を上げるが、その声は口が塞がられているせいで押しこまれてしまった。
「ほら、血だ。お前の淫乱な血」
「ふっ、ぅ...う゛ん、ん゛ぐっ...っ、」
頬に塗りつけられるぬめった液体はきっと、愛都の下半身から流れ出たもの。
愛都はそれに堪らず肩をビクつかせた。
そして同時にその声によって目の前にいる人物が誰なのかが分かり、目を細める。
今自分の上に覆い被さっている男、叶江を最後に見たのは沙原とともに過ごしていた時のこと。その男の顔を今、こんな真夜中の時間に見ることになるなんて思いもしなかった。
「せっかく優しくしてやったのに。ちょっと調子に乗りすぎだな、お前も」
「ぅあっ、痛っ...ぁあ゛あっ、ぁ、ん゛ん...ぅ、ん...っ、」
俺の口を塞いでいた手が離れたと思えば、今度は熱い唇で塞がれた。
口腔の中にぬめり、と入ってきた舌は歯列や上顎をなぞり、そして奥に逃げ込んでいた愛都の舌を吸い上げると甘噛みし、味わうようにして弄る。
唾液が溢れ、口の端を伝って垂れていく。何度も何度も向きを変えて口腔を犯され、快感で力が入り眉間にしわが寄った。
だが、相変わらず下半身には律動に合わせて鋭い痛みが走り、快感と苦痛の間を行き来した。
何も考えることができず、痛みを紛らわせるかのように...些細な抵抗として叶江の肩に、背に、手を伸ばし、ギリ、と強く爪を立てる。
そうすれば爪の中に肉が食い込むリアルな感触がした。
その瞬間、叶江の舌の動きが止まり、俺は心の中で“ざまぁみろ”と叶江に向かって貶しの言葉を向ける。
「はっ、まだまだだ。もっと...もっと消えないほどの痕を俺に残してよ」
鋭い眼光を叶江に向けるが、当の本人はそれに笑み、そして再び愛都の唇を貪り始めた。
――
――――
――――――
すぐそばで眠りに就く、男の下半身は白濁と赤い血で汚れている。
そして俺の背中はその男によって傷つけられ、血が流れていた。だが、それに対して苦痛はなく高揚感ばかりが湧きあがる。
「やっぱり、優しさなんかじゃ...お前は俺を見ようとしない」
行為の最中に向けられた、俺だけを見つめる鋭い眼差し。
― それは俺を見ていた
― 俺だけ、を
自然と上がる口角は下がることなく、叶江は目を細めて笑みを浮かべた。
end.
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