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リクエスト小説(叶江×愛都/叶江視点/ほのぼの甘々(?))
それは突然のことだった。
退屈な授業を抜け出して叶江が屋上へと向かっていた時のこと。授業中ということもあり、どの階も静かな校内。そんな校内で響くのは、何かが派手に倒れるような物音。だが、叶江がいる階には空き教室や多目的教室、音楽室などしかなく、授業がそのうちのどこかで行われている気配はなかった。
そんな条件があるせいか、暇をしていた叶江はその音に興味が湧いた。
― きっと強姦だな。
誰もいない教室内で乱暴な音が聞こえるといったらこの学校では、大半の理由がケンカなどよりも強姦の確率の方が高かった。
女がいない隔離された空間のせいで男が男を強姦するなど、ここではありえないことではない。
他人の性交なんかには興味はなかったが、強姦され、無理矢理に屈服される男の姿を見るのは愉快で好きだった。それにその現場を写真にでも残しておけばまた“使える人間”が増える。
足音を立てないよう、静かにその物音がする方へと向かった。
多目的教室の扉を開けようとすれば、案の定、内側からカギがかかっていた。
「甘い甘い」
その抵抗を鼻で笑い、制服のポケットから取り出すのは、学校内全ての扉に使えるカードキー。ここの理事長と血縁関係があるおかげで与えられたもの。それを使い、叶江はたやすく扉の鍵を開けた。
「大人しくしろよ!漸くあんたが1人になったんだ、」
「そうそう。こういうのは楽しんだもん勝ちだよ?」
さっと、中に入り物陰に隠れる。2人の男の声が聞こえ、そのすぐ後に捕まった男のものかバタバタと暴れるような音が聞こえた。
まだ始まったばかりか、とこの状況に笑みが浮かぶ。そして物陰からその男たちの方を覗き見た。
「...あれ?」
だが、その体勢のまま一瞬叶江は固まった。
そこには予想外の人物がいたのだ。そう、男2人に床に抑えつけられているその人物はよく見知った顔で。
― 襲われてるの、愛都じゃん。
愛都は上半身が露わになった状態で、制服のズボンを脱がされそうになるのを嫌がり、必死に抵抗していた。
まさか、あの愛都が押さえつけられているとは思わず、相手の男2人に感心した。
― きっとあの2人も必死なんだろうな。じゃなければ愛都があんな体格が良いわけでもない2人に襲われるわけがない。まぁ、これはこれで面白いか。
普段は見ることはないであろうその行為を中断させる気はなかった叶江は、特に何か行動するわけもなく3人の姿を見続けた。...―――しかし、
ふと、こちらを見た愛都とバチリ、と目が合った。
珍しく涙目で縋るようなその眼差しに、叶江は不覚にも意識を吸い寄せられた。
目で助けを求める愛都。いつもは自分を睨むか、蔑んでいるだけだった愛都が素で自分に頼るその姿は優越感を募らせるには、十分のことだった。
「わーるいんだ、わるいんだ。せーんせいに言ってやろう」
そう、小さな時に言っていた言葉を3人に向けてなげかける。
叶江の存在により、教室内は一気に張りつめた空気になった。
興奮しているのか昂ったものでズボンを押し上げている2人は叶江の姿をみて焦ったように口元をヒクつかせた。
「...あ、恵...これは、あの...」
「俺たちは、ただ...」
「ただ、何?」
そう問うが、2人は口を閉じ沈黙する。学内で悪評も含めて有名な叶江の笑顔の脅しに2人の顔は青ざめていく。
すでにその2人の視界には、愛都の姿はうつっておらず、叶江のみが意識も含めて独占していた。
そんな2人に叶江は微笑する。
「まぁ、安心してよ、冗談だからさ。でも...早くどっかに行ってくれないと気が変わっちゃうかも。」
そう言えば、慌てた様子で2人は立ち上がり、うなだれながら早足でこの場から去っていった。
その様子を見て、自分の悪評も役に立つものだな、と改めて考えさせられる。
「めっずらしいじゃん。愛都が襲われるなんて...って、ぅわっ!」
出ていく2人の後姿を見て笑い、愛都の方を見た瞬間、突然突っ込むようにして叶江の体に愛都は抱きついてきた。それに驚きながらも、優しく頭を撫でてやれば、先程よりも強く愛都は叶江に抱きついてきた。
「本当、らしくないなぁ」
「...叶江、」
素肌が露わになった上半身は微かに震えており、叶江は何も言わずに愛都のことを抱きしめた。
そうすれば、ふっと愛都は震えるのを止め、上目遣いでこちらを見てきた。
「叶江...怖かった...怖かったんだ...」
ついには安心しきったのか、瞳からはポロポロと涙が流れ落ちる。
いつになく感情が曝け出されているその姿に叶江は庇護欲をかきたてられた。
「愛都...」
そして顔を近づけ、2人の唇と唇の距離はついに0距離に...―――
――
――――
――――――
「...い...ろ...おい、起きろクソ野郎」
「...んー、」
「さっさと起きろ。時間がないんだ...あぁ、あったあった。叶江、カードキー借りてくから」
突然耳元で大声を出されたかと思えば、次の瞬間には悪態をつく愛都にズボンのポケットをまさぐられる。そしてそのままマスターキーであるカードキーを持っていかれてしまった。
「よく屋上の固い床で熟睡なんかできるな。本当、ぶっとい神経」
蔑んだ目をした愛都はそれだけ吐き捨てると、そのまま屋上から去っていった。
「まぁ、これはこれでいい目覚めだ。」
そして叶江は愛都にまさぐられたズボンのポケットに手を入れ、笑んだ。
end.
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