君のため | ナノ
 29




 薄暗い部屋の中。消毒液や血、情事の蜜なにおいが漂う。
 赤色が滲む口の端を舐めれば芳しい血の香りがした。

 激しいキスで元々切れていた口内は真っ赤な液体が染み渡る。どこもかしこも赤が映えた体。
 青紫色の痕を強く押せば、目の前の男は顔を歪めて呻いた。

 「 へんたい 」

 しかし、表情とうって変わって男の下半身は熱く、固さを強調していた。
 傷を舌で抉る度に、その存在を主張していく浅ましい姿に愛都はひどく興奮した。

 「...ぁ...はっ、ま...愛都、」

 「本当、お前は汚いな」

 物乞いする瞳。堕落しつつある、男のそれを愛都は自身の中に埋め込んでいった。

 そして休む間も無く、愛都は自ずから腰を動かして快感を味わう。
 堕ちて、汚れた香月に犯されることで愛都自身も黒く汚れていく。もはや救いようのない程に澱んだ体にはちょうどよかった。

 馬鹿な人間。欠落品。そんな奴が求める存在。類は友を呼ぶとは、よく言ったものだ。

 響き渡る嬌声は最早聞きなれた自身の声。耳を塞ぎたくなるほどの嫌気をどれほど味わったことか。だが、そんな声さえも愛おしい、と目の前の男は聞き洩らすことなく全て脳内に刻み込んでいく。

 いやらしい水音の元である体液を愛液だと錯覚する男がただただ愚かであった。

 激しくなる律動。愛都の体は押し倒され、主導権は奪われる。
 体が熱い。昂り、ついには何も考えられないほどに真っ白な世界を作り出す。
 その世界でたった1人、眠り続ける存在。それは...―――

 「まなと...ッ、」

 中を、無生産な白濁が満たしていった。今は熱いこの“生”の象徴も、外に出てしまえばただの排泄物となってしまう。

 「愛都...お前は俺のモノだ。なぁ、次はどうしたら喜んでくれる?どこに傷をつければいい?どこの骨を折ればいい?そろそろ目を潰した方が、いいか?あぁ、でもそんなことをしたらお前のことがちゃんと見れなくなるな」

 情事の余韻など、忘れ去るほどの歪んだ言葉の数々。
 この男がこんなことを言う日がくるとは、一体誰が想像できただろうか。

 「...さっさと堕ちてしまえばいいのに」

 その小さな呟きは多分、男には届いていない。
 残酷な世界が明るい光に見えるほど、香月は狂ってしまっているのだ。

 ― 同情などできるわけがないんだ。

 良心など、元気だった宵人とともにどこかへいってしまったのだから。




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