▽ 27 〃
『1回お前がリンチされるごとに、1回ヤらせてあげるよ』
そんな悪魔の言葉を吐き出してきたのは、天使のようなあいつ。
『あ、でも最後にリンチされてから1週間が経つまでにまたリンチされてないと...そこで俺等の関係は終わりだ。いいな?』
それだけ言うと、愛都は爽やかに髪の毛を靡かせて香月の元を去って行った。
香月は自身の罪と向き合う時が来たのだ...―――復讐という形で...
だが、不思議と心は晴れ渡っていた。希望に満ち溢れ、幸福感を味わっていたのだ。
― 俺がリンチに遭うだけで...それだけで、愛都はまた俺の元に戻ってくるんだ。
香月の口元には笑みが浮かぶ。
思い出されるのは、高すぎない掠れた喘ぎ声と滑らかな肢体。熱く、そして固くなったそこを締め付ける蜜の中。
― あぁ、早く犯してやりたい。あぁ、早く乱してやりたい。あぁ、早く...―――この手の中に閉じ込めてやりたい。
愛都が提示してきた、無理難題な要求の異常さに香月は何の違和感も感じなかった。なぜなら、香月自身も既に狂ってしまっていたから。だから胸の中には希望が満ち溢れていた。
今の香月には、愛都の侮蔑の目も嘲笑うかのような高笑いも、全て天使の愛に満ちたそれに見え、聞こえてしまうのだ。
敗者とは何か。プライドとは何か。愛とは何か。
香月は苦労というものを知らなかった。家も容姿も恵まれており、叶わない願いなどなかった。
敗者になったことも、プライドを打ち砕かれたことも、愛情を向けられなかったことも、何もかも体験したことがなかった。
この容姿で、金で、そして...――― 暴力で、望み通りに過ごせてこれたのだ。
だから香月は気がつかなかった。
自身がすでに地から足を踏み外し、底の見えない暗闇へと堕落してしまっているということに。
「なぁ、お前ら...暇?」
そうしてその日の夜。香月が向かった先は暗闇の中、月が顔を覗かせる街角の路地裏。
ガラの悪い若者が数人いるそこに、香月は1人足を踏み入れた。――― 愛都にもう一度触れるために。
月の光で照らされたその唇は期待と幸福感で歪んだ笑みを浮かべていた。
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