▽ 23
人はどれだけの期間、自身の欲望を我慢することができるだろうか。
そしてその積もり積もった欲望を叶える為なら、どれほどの対価を払うのだろうか。
もちろん、その答えは1つとは限らない。いや、寧ろ複数存在する。
欲望を堪え抜く者。忍耐力の弱い者。対価を払うくらいなら、とあっさり諦めてしまう者。はてや、同等の対価を払って欲望を叶える者。
それは人それぞれだ。
しかしある条件がつくと答えは2択に絞られる。そのある条件、それは...―――もしも欲望を堪える者が“中毒者”だったら...というものだ。
中毒者は一般的な制限が利かない。何が何でも欲望を叶えようとする。
ドラッグ中毒者などがわかりやすい例えだ。ドラッグの為なら法を犯すことだってわけない。
自分自身の為だけに生きるのだ。...脳が正常な判断を行うことができないがために。
とても本能的で、危険な存在。
だが逆にいえば、それだけわかりやすく、単純で、扱い方がわかっていればいい道具となる。
― 狂った人間に考える余地などないのだから
「つくづく、バカなやつだ」
その言葉は真っ白な病室の中、響いたように感じた。
「なぁ、宵人...もうすぐ、お前を虐めてたやつの1人に復讐できそうだよ」
依然として意識は戻ったものの、魂が抜けてしまったような姿をしている宵人。だが、それでも愛都は十分だった。
力なくベッドに投げ出されている手は、とても温かかった。頬は血色がよかった。
生きてさえいてくれればそれで十分だった。
「俺はいつまでも待つよ...また、宵人が笑顔で俺の名前を呼んでくれるその日まで...―――それまでに宵人をこんな目にしたやつら全員、地獄に落としてやるからさ」
そう言い、微笑む愛都の表情はとても和やかだった。
「それじゃあ、明日の準備もあるしもう学校に戻るな...次、会う時は良い報告持ってくるから」
そして愛都は宵人の頬にキスをすると、そのまま病室を後にした。
prev|
next