▽ 22 香月side
ひどく喉が乾いた。いや、正しくは体が、か。
例えようのない、強烈な渇きが常に香月を襲っていた。だが、単純に水分を補給してもその渇きが潤うことはない。
唯一その渇望が叶うとき...それは―――
「愛都...」
千麻愛都。その男と過ごす蜜なひと時。その時だけは香月はいつも通りでいられた。
「...クソッ、」
しかし一度離れてしまえば再び酷い渇きが香月を襲う。自分はただのセックス依存症に陥ってしまったのか、と媚びてくる男子生徒を何人も抱いた。―――それでも渇きは潤うことはなく寧ろ酷さを増していった。そして衝撃的なことに、愛都以外の人間だと香月はイクことができなくなってしまっていることに気がついた。
くだらないと思っていた学校行事である旅行から帰ってきて早数日。旅行の最終日に愛都とヤって以来、香月は何かと理由をつけられて愛都と接触のない日々を過ごしていた。
気づけばおかしくなってしまった自分の体。頭の中は愛都一色だった。だがそうは言っても単純な恋愛的思考なのではない。もっと複雑で黒く濁りきった感情だった。
「乾いた...」
今日も学校に来てから1度も愛都に会っていない。避けられているようにも感じた。
ーあいつは俺のことを愛しているはずなのに、
愛都のクラスに行くが次が移動教室だったのかそこには生徒1人いなかった。そうして鳴り響くのは授業の開始を伝えるチャイムの音。
先ほどは体育だったのだろうか各々の机の上にジャージは脱ぎ捨てられていた...―――もちろん、愛都の机の上にも畳まれたジャージが置かれていた。“千麻”と刺繍されたそれに香月の手が伸びる。
「...っ、」
それを持ち上げ、鼻先を埋めれば鼻腔いっぱいに愛都の匂いが広がった。
変態じみた行為。香月の下半身はそれだけで大きく反応見せていく。
「ふっ...ぅ、く...ッ、」
誰もいない教室。しかし、いつ人が入ってくるか分からない状況。それでも香月は本能のままに自身の性器を刺激し始めた。
愛都の匂いを嗅いでいるだけで本人がそこにいるように錯覚してしまう。
くちゅくちゅとなる水音。そして徐々に絶頂は近づいていき...
「...ッ!!」
香月は床に精子を飛び散らせた。
愛都以外の男とセックスしてもイクことができなかった体。しかし今は、ただ愛都の匂いを嗅いだだけで、呆気なく吐精した。
ー 一体、俺の体はどうなっちまったんだ、
荒くなった息。だが先ほどまでの渇きは僅かにだがましになった。
自分はやはり狂ってしまったのか。
「はははっ、マジかよ、この俺が...」
でもそれもいいかもしれない、そう思った瞬間香月は笑いがこみ上げ止まらなくなった。
ーおかしくなったっていいじゃないか。愛都がいれば、何も悩むことはない。
持っていたジャージを机に起きぼんやりと天井見上げる。
そんな香月の目はドラッグを吸った後の人間と同じような虚ろな瞳をしていた。
「まだまだラリっちゃうのは早いよ...香月、」
廊下の方から、小さく呟かれるその声に、香月が気がつくことはなかった。
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