▽ 14※
「本っ当にありがとう。すごく嬉しい...すごく、」
「喜んでくれてよかった、あまり人にプレゼントってしたことなかったから...ようやく安心できたな」
沙原の白い首で銀色に鈍く光るアクセサリー。それは、香月と別れた後に、他の土産物屋でてきとうに買ったネックレス。
見学が終わり、ホテルで夜を迎えた今。愛都は沙原と永妻のいる部屋へと足を運んだ。
特に何も考えずに買ったものだったが、過剰と言っていいほどに沙原はそれを喜んだ。
何の変哲もないネックレスを家宝か何かを見るような目で見つめ、指で何度も優しく触る。
永妻は部屋の奥で大人しく待ってるよう言われたのか、玄関に姿を現すことはなかった。
「それじゃあ、そろそろ俺は行くね。」
用事は終えた、とばかりに部屋を出ようとすれば案の定、沙原はそれを阻むようにして愛都の腕を掴んできた。
「もう、行っちゃうの?僕、もっとたくさん愛都君と話がしたいな、」
「んー、俺も沙原君とはたくさん話したいよ。...でも、なんていうかさ...」
「...愛都君?」
「ちょっと...今は気恥ずかしいんだ。ほら、さっきも言ったけど...あまり、人にプレゼントしたこととかないから」
ペラペラと自身の口から紡がれる言葉。よくもまぁ、そんな有りもしない感情を口にできるな、と笑いそうになる。
「だから、また明日ね」
「...あっ、え...えーと、また明日ね。愛都君、」
そして簡単に騙される沙原。先程とは違い、愛都を見送るその顔は照れたように赤く染まり、満面の笑みを浮かべていた。
――
――――
――――――
「来るのが遅せぇ。もっと早く来れなかったのかよ」
「ごめんごめん、ちょっと沙原君の部屋に寄っててさ」
沙原の部屋を出て向かった先は香月の部屋。愛都を出迎えた香月は“沙原”という言葉に反応し、僅かに目を細めた。
それに気がつきながらも愛都は素知らぬ顔をして部屋の中へと入っていく。
「なんで俺よりも先に弥生に会いに行ってんだよ」
そんな愛都の後ろを歩く香月は不満気な言葉を投げつけた。しかし、その明らかに機嫌が悪くなった声音に対して愛都は逆に口角を上げて微笑む。もちろん、香月には見えないように。
「沙原君に贈り物をちょっとね。昼間、香月君と別れた後に別の店で買ってさ。...それを渡しに行ってたんだ。―――って、わっ、急にどうしたんだよ」
唐突に後ろから抱きすくめられる。こうなることは予期していたが、とりあえずは驚いたふりをした。
だが、首筋にあたる髪の毛が、じわじわと広がるこの体温が、酷く嫌で演技をしなくても声は上擦った。
「あっ、もしかして嫉妬してる?」
「...さぁな。」
「...素直じゃないなぁ。でも、香月君、これだけは言わせて。沙原君に対して俺があげたのは“物”だ。でも、香月君に対しては...」
首を少し捻り、すぐ後ろにある香月の唇をぺろり、と舐め、その拍子にあいた口腔へと舌を入れ唇を重ねる。
「...香月君なら分かるでしょ?香月君が嫉妬する要素なんて何もないんだよ。...なぁ、早くこの続きをしようよ」
妖艶な笑みを浮かべる愛都に、欲情する目の前の男。
普段は暴力ばかりに使う、その手は愛都の体に優しく触れ、服の中へと滑るようにして入っていく。
「今日は外じゃないから、長い間繋ぎ合ってられるよ」
そして掠れたようなその声は、香月の感情を一気に高ぶらせた。
「香月君、起きて」
「ん...、」
朝日が射すベッドの上、愛都は自分を抱きしめてくる腕から逃れようと、香月を起こしにかかるが当の本人は中々起きようとはせず、愛都の肩口に顔を埋めて眠るばかりだった。
「はぁ...」
― 叶江や綾西とは大違いだな。
年寄りか、と言いたくなるほど目覚めの早い叶江と、眠ろうとはせずむしろ起き続けて気味悪く愛都を見続ける綾西。こんな2人だからこそ、愛都が“起こす側”になることはあまりないのだが、今回は違う。
香月は余程、熟睡しているのか声をかけても揺すっても起きる気配を見せようとしない。そのくせ、愛都のことは離そうとはしないため、朝から億劫さを感じていた。
後ろから抱き締められ、寝返りも満足にできない。
「...しょうがないな、」
そう呟いた愛都は僅かに体を香月の方へと捻らせ、ある行動に出た。
手を下にもぐらせ、香月のスウェットの中へと入れる。そして性器を掴むと、愛撫を始めた。
つい数時間前までずっと性行為を行っていたにも限らず、香月のものは固くなり熱をもち始めた。
「ふっ...ぅ...まな、と...?」
そうすれば、さすがの香月も軽く息を荒げながら目を覚ました。そして僅かな動揺と興奮を織り交ぜた瞳を愛都に向ける。
「おはよう。香月君...全然起きてくれないから...触っちゃった」
上下に扱き続けながら、そう言い笑めば香月は愛都を抱きしめる手を離し、体を自身の方に向けさせるとそのまま愛都の唇に自分の唇を重ねた。
「んん...っ、あ...はっ、」
舌が口内に入り、深くなる口づけ。
「ねぇ、香月君...これ、舐めていい...?」
そして一瞬唇が離れた時に、そう耳元で囁けば香月は口の端を上げて笑んだ。
愛都は一度起き上がると香月の下半身に移り、スウェットと下着をおろしていきり立つ物を躊躇なく口に含む。
先走りで濡れ、脈打つそれは口腔内で大きさを増し、舌には苦い精液が染み渡る。
今にも達しそうな性器を窄めた口で刺激し、雁の張った部分を強く吸い上げながら上下に扱きあげた。
「...ふ...ぅッ、」
そうして亀頭を舐めあげ、先端の穴を舌で抉るように弄り続けた結果、ついに香月は愛都の口の中で達し、喉奥に熱い精子を迸らせた。
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