君のため | ナノ
 3



 次の日の朝SHRが終わるや否や俺はある場所へ足早に歩いて行った。

 「ここか...」

 立ち止まった場所は俺のクラスから2つ離れたクラスの教室前。

 募る怒りをなんとか抑えて扉に手をかけた。

 近くにいた生徒に恵 叶江はどいつかを聞き、言われた奴の方へ歩いていく。

 「お前が恵 叶江か、」

 目の前に立ち、そう問う。
 耳が軽く隠れるくらいの長さの、茶色く染められた髪の毛。それはワックスで整えられており、そこから覗く彫りが深い顔立ちに高い鼻、二重の切れ長の目はいい意味でとても特徴的だった。

 俗にいう美形。まぁ中身は最低野郎だが...。

 「あぁ、そうだよ。イケメンさん」

 馬鹿にしたようなその口振りにイラつき、眉間に皺が寄る。

 「俺は宵人の兄弟の千麻 愛都(せんま まなと)だ。お前に話がある。ちょっと来い」

 「ふーん。あぁ、そうだ。俺もお前に話があるんだわ。ちょうどいい」

 ニヤリ、そんな風に笑みを浮かべる男はまた人を小馬鹿にしたように話す。

 「じゃあ行こうか...愛都」

 そして椅子から立ち上がって一歩踏み出し俺の耳元で囁く。

 「っ、名前で呼ぶな...っ。胸くそ悪い」

 ザワッと鳥肌が立ち、その反動で奴の胸を強く押し一歩離れる。

 「はっ、威勢がいいのも今のうちだよ」

 早く事を済ませてしまいたくて足早に歩みを進ませた俺は奴がそんな事を言っているなんて知る由もなかった。




 「言っている意味がわからないんだけど」

 人気の少ない空き教室。そこにいるのは、今にもキレてしまいそうになっている俺と、クスクスと笑っている恵 叶江の姿。

 「だから...」

 「いや、そのことはわかる。要するに宵人に優しく接してやれってことでしょ?」

 「わかってんなら――― 」

 「なんでそんなこと俺が命令されなきゃなんないわけ。いいでしょ別に、宵人がいいって言ってるんならお前がでしゃばらなくても」

 「いいわけねぇだろ!!宵人は俺の大切な家族の一人なんだ!それを黙って見過ごすことなんてしない。宵人が嫌がらなければすぐにでもお前を殴ってやりたいぐらいだ 」

 苛立ちが募り、拳を握りしめる力が強くなっていく。

 嫌なくらいに整っているその顔を血反吐が出るまで殴ってしまいたい。

 「はははっ、まぁお前からしたらそうだよな。―― 別に俺はお前の言うことを聞くのが嫌というわけではない。...その望みを聞いてやってもいい。ただ、条件がある」

 「...条件だと?」

 「ぁぁ、条件。...それはお前が俺の犬になること」

 「...は?」

 条件は何かしらあるだろうと予測していた。しかし実際に言われたその言葉に、俺は詰まってしまった。

 犬?俺がこいつの?...こいつなんかの?下になるということか、

 「別に呑まなくてもいい。それによって困るのは俺じゃなくてお前たちなんだから。さぁ、どうする。今、答えて」
 
 「...っ」

 こんな奴の犬なんかになりたくない。

 そんなの願い下げだ。
 
 だけど、だけど俺がこの条件を呑めば宵人はまた笑ってくれるようになる...?幸せそうに...。

 「はーやーく」
 
 「...っ」

 「...あぁ、交渉不成立ってことかな。それがお前の答えか。ふっ、そうか...じゃあ、俺はまた殴って可愛がってあげるよ。愛しの宵人をな」

 「...っ、ま、待ってくれ!!」

 俺を残して去ろうとする奴の背中を睨むように見て、呼びとめる。

 絶対にいいたくない。こんなこと、

 奴の言葉で後押しされた俺のこの考え...だけどやはり心の底では未だにその考えを拒否してしまい、中々そこから言葉を発することができない。

 「...に、なる...」

 「え?聞こえないよ」

 「...っ、お前の犬になるって言ってんだよっ」

 でもそれ以上に、宵人に幸せになってほしいという感情が俺の中を走り回るんだ。

 「交渉成立だな」

 悔しそうに睨む俺を見て、奴はひどく愉快そうに笑う。
その目は俺を人として見てない冷酷なものだった。

 「約束だ、さっき言った通り宵人には―― 」

 「わかってるよ、何度も言われなくてもな」

 そして奴はゆっくりと俺の方へと歩み寄ってくる。

 手が伸びてきたかと思えば強く前髪を掴み上げられる。

 「...う゛っ」

 「今日からお前は俺の犬だ、」

 「...クソ野郎っ...ぐっ、ぅ...」

 瞬間、殴られその勢いで掴まれていた前髪から手が離れた。

 鈍い痛みが広がり、キッと目の前の男を睨みあげる。

 「ははははっ、生意気な奴。俺はクソ野郎じゃない。ちゃんとした名前がある。...そうだな、とりあえず俺のことは叶江って呼んでくれればいいかな。恵なんて名前、大嫌いなんだ」

 二コリ、と好青年のような笑みを向ける目の前の男。
 その表情に、無性に苛立ちを感じ舌打ちをする。

 ――そして、再び殴られた。

 次は衝撃を受け止めきれず床に尻もちをつく。

 「おいおい、犬のくせに飼い主の俺に舌打ちか。俺が笑顔向けてやったんだ、尻尾振って喜ぶくらいしたらどうだ」

 「...っ」

 腹に響く痛み、頬も痛む。

 しかし今の俺にはそれらの痛みよりも奴への憎しみが勝った。

 悔しい...。こんな奴に見下されるなんて。胸がムカムカとして、どんどんと苛立ちは募っていく。

 でもこれも宵人のためだ...宵人の...っ。

 「なぁ、―――脱げよ、制服も何もかも全部、」

 「な、なんで俺がっ」

 必死に耐えていた中、言われた命令を俺は反射的に拒否し茫然としてしまう。

 「なんでって、そんなのお前が犬だから。犬なんだから服なんていらないでしょ」

 それは自分勝手な理由。俺の自尊心なんて全く考えていない。

 嫌だが、こいつの命令は聞こう。そう思ってはいたが、さすがにその命令には目を見張った。

 「宵人、」

 「...クソっ、」

 しかし、“宵人”を出されれば俺は何も言えなくなってしまう。宵人のため、宵人のため、と。

 ギリ、と歯を食いしばりながらも俺は制服に手をかけていく。

 俺は女なんかじゃない、男なんだ。しかもこいつとは男同士、裸になったからといって別段恥ずかしむことなんてないじゃないか。

 ...堂々とすればいいんだ。

 そう、自分に言い聞かせ上着を脱ぎYシャツのボタンをはずしていく。

 「あ、意外に筋肉ついてんだな。着痩せするタイプか」

 「...だったら何だっていうんだ」
 
 ボタンを外し終わり、Yシャツを脱いで上半身裸になればそんな俺を見て、叶江はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを向けてきた。

 悪趣味な奴。気持が悪い。一秒、時間が進むごとに比例して俺の中で叶江に対しての嫌悪感か募っていく。

 ベルトに手をかけて緩めている間も感じる舐めるような視線。

 こいつは一体何を考えているんだ。男の...同性の裸を見て何を感じる?...何も感じないだろう?

 それともただ単にこいつは俺に羞恥心を与えたいだけなのか。

 おちょくってる?俺の従順な姿を見て俺が犬であることを実感したいか、

 ...まぁどの理由にしても、こいつが気持ち悪い野郎だっていうのに変わりはないがな。

 「これでいいか」

 ストン、とズボンを下ろし下着だけの姿になる。
たくさんあるうちの一つの椅子に座りこちらを見てくる叶江にそう問えば、そいつは笑みを一層深めてきた。

 「何いってんの、俺は全部脱げって言ったの」

 そして席を立つと俺の方に近づきツゥ、と脇腹から腰までのラインを指でなぞった。

 「っ、触んな!気持ち悪い...ふざけんのも大概にし――― 」

 「わっかんないかなぁ...お前はとんだ駄犬だ」

 かと思うと急に肩を掴まれすぐ近くに会った机の上に無理やりうつ伏せに押し倒された。

 「はっ、やめろ!バカ野郎っ」

 無防備になった背中を下から上へ伝うように舌で舐められ、吐き気がひどくなった。

 「あーあ、そんなこと言う?飼い主の俺に、さ」

 「っ!?」

 途端、穿いていた下着を膝まで下げられ、下半身に冷たい空気がまとい僅かに身震いする。

 何考えているこいつは。
 気持悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 今のこの状況、体勢、行動、全てを考えるに思いついた一つの考えが俺を責める。

 「ま、安心してよ。ちゃんと躾けてあげるからさ」

 「ひっ、や、やめろ...っ!!クソっ!離せっ触るな!俺に触るんじゃねぇ!!」

 耳に叶江の息がかかり、普段触れることのない穴を撫でる指に、俺はついに我慢が出来なくなり
抵抗しようと暴れるが、うつ伏せで上から押さえつけられているせいで思うように体が動かなかった。

 「うっ...く、気持悪ぃっ、離せ、どけろよ!ふざけんな!俺はそんなこと...」

 「あーあーあー、うるさい。...少し黙っといてよ」

 「ひぁっ...い、痛...」
 
 何か冷たい液体が後ろに垂らされたかと思うと、ズっと中に指を無理やり入れられ、体が強張る。

 「うわ、きっつ。おいおい、まだ指一本だよ?力抜けよ、こんなんじゃ入んないし」

 「っじゃあ、入れるんじゃ、ねぇ...っんん、」

 「その減らず口もあとどのくらいもつんだろうな」

 無理やり押し入れられる指の圧迫感が気持悪い。

 指が2本、3本と増えていき鈍い痛みが俺を犯す。

 嫌で嫌で嫌で気持ち悪くて、吐きそうで...涙の膜をつくりながら抵抗するが、ふるった拳はすべて奴のとこまで届かず、悔しくて机に何度も叩きつけた。

 「ハハハっ、そんな机 叩いてなにがしたいんだよ。痛くないか?」

 そんな俺を鼻で笑い、傷ついた手を掴みあげると顔を近づけキスをしてきた。

 唇の感触が気持ち悪くてガッと振り払うが、
その行動さえ奴はおかしいのか、クスクスと笑う。

 「クソ...っクソクソ、クソ...っ、お前、なんかに...ン、あぁっ」

 「あ、やっと見つけた」

 突然体中に電気が走ったかのような快感が俺を襲い、自分の声とは思えないほどの高い艶めかしい声が唇からこぼれる。

 「あぁっ、嫌、だ...っんん、ふ...あっ、ぁ...」

 何度も何度も俺をおかしくさせるある一点を突き、擦ってはつぶして動く奴の指。

 徐々に自分のそこも熱くなってきていることに気づき、自身への嫌悪感が生まれる。

 気持悪くて、嫌で、張っていた涙の膜は快感によって破れ、一粒、また一粒と生理的な涙として俺の頬を伝う。

 止まることのない自分の高い喘ぎ声に焦り、慌てて腕で口元を塞ぐ。

 教室内に響く水音と、自分のくぐもった声がやけに大きく聞こえた。

 しばらく、それに耐えていればズルリと後ろから指が抜けていき安堵した。

 しかしその後すぐに襲ってきた、穴に触れる熱いそれに息が止まる。

 「時間かけて慣らしてやったんだから、ちゃんと楽しませてよ」

 そしてズブズブと無理に入ってくる叶江のもの。

 背中に覆いかぶさってくる叶江の体。

 「ん゛ん――――っ!!!」

 瞬間、意識が飛んだ。





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