君のため | ナノ
 21 綾西side



 「...またかよ」

 朝、学校に登校して靴箱を開けるとそこにはいつものごとく生ごみなどが多く投げ捨てられていて、中には何も置けない状態になっていた。

 ―やっぱ、靴持って帰るようにして正解だったな。

 いじめに合うようになって、一度靴をボロボロにされてからというもの俺は毎日靴を持ち運ぶようになった。
 案の定俺の靴箱はきれいにしても次の日には必ず汚されてしまっていた。

 「...はぁ、」

 さすがにもう辛かった。1人で行動するようになって...いじめに合うようになって...そして体中に傷ができるほど毎日暴力を振るわれるようになって。

 ―弥生にも...嫌われちゃった、っぽいし。いや、でもまだ拒絶はされていないか。
それだけが唯一の助けだった。だからもしかしたら...弥生なら助けてくれるかもしれない。

 俺の今の状況を知れば弥生だって...――― 同情して、また俺のことを見てくれるかもしれないんだ。

 同情でも何でもいいから...ただ俺は弥生の笑顔が見たい。

 「...何だ、あの人だかり」

 靴を履き替え、少し歩くと玄関の掲示板に多くの生徒が集まっているのが見えた。
 なんとなく悪い予感がした綾西は早足でそこへ近づいていく。

 「...っ!」

 そして近づくにつれ、見えた光景に目を奪われ一瞬息が止まった。

 掲示板にはたくさんの写真が貼られていた。

 その写真には全て顔は写っていない。写っているのは尻の穴にデイルドを突っ込まれている男の体...――― そう、千麻に屈辱を与えられた日の、俺の姿だった。

 一気にあの日のことを思い出し、心臓がバクバクとうるさくなり始めた。

 冷や汗が頬をつたう。握った手の平には汗が滲んだ。

 ―あいつの仕業だ。千麻しか、いない。

 一歩、また一歩と足を踏み出し少しずつ人だかりから離れていく。

 焦点が定まらず、いつものように前を向いて歩くことができない。

 「ぅあ...っ、」

 そうやって歩き続けていると急に強く腕を掴まれ、引き寄せられた。
かと思っているとその勢いのまま床に投げ捨てられ、強く全身を床に打ちつける。

 何なんだ、と思った頃には扉の閉まる音がして、四方八方から笑い声が向けられる。
 顔を上げれば5〜6人の男子生徒が視界に入り、俺は嫌な汗を掻いた。

 「ねぇ、泰地君。これ、すごくよく写ってるよね」

 「...っ、なんで――― それを持って...っ」

 その中から1人が前に出てきてヒラヒラと1枚の写真を綾西の目の前にちらつかせてきた。

 「んー、なんでだろうね。いや、それにしても意外。泰地君って玩具で遊ぶのが好きなんだ...後ろの穴使って」

 男がそう言った瞬間、周りからゲラゲラとバカにしたような笑い声が飛び交った。

 「何、言ってんの...意味わかんないし、ってかそれ俺じゃないから」

 「あははははっ!泰地君こそ何言ってんの、嘘はいけないよ、嘘は」

 「あ゛ぐ....っ」

 男は笑い、床に座り込んでいる綾西の脇腹を思い切り蹴り上げてきた。
 そこはよく蹴られている部分で、一番痣の痕がひどい部分であった。そのせいで酷い痛みが襲い薄い涙の膜が張って視界が歪んだ。

 「俺達さ、泰地君はただのサンドバックとしか見てなかったけど...なんかさ、この写真見てると――― ヤって見たくなっちゃったんだよね、泰地君と、」

 すると周りにいる、見てるだけだった奴らが俺の元へと近づいてくる。
全員がこの状況を楽しんでいる目をしていた。

 「い...嫌だ...っ、ふざけるな!誰がお前らなんかと...っ、」

 「はぁ?ダメダメ。泰地君に拒否権はありませーん」

 「やめ...っ、触んなっ!!」

 慌てて立ち上がれば、後ろから誰かに羽交い締めにされた。

 ―ふざけんな!こんな奴らにヤられてたまるか...っ、

 「離せって、言ってんだろっ!」

 「う゛...っ、痛ってぇ...」

 痛む体に無理をして俺は全身の力を振り絞ると、羽交い締めにしてきた男の鳩尾に肘を食いこませた。

 油断していたのか、男は直に腹に衝撃を受けて苦しげに呻く。

 そして俺を拘束する腕の力が弱まった隙に俺はその男から逃げだし、周りが動き出すよりも先に走って空き教室から出ていった。

 男たちもまさか俺が反撃してくるとは思ってもいなかったのだろう、予想よりも簡単に逃げ出すことができた。

 しかし廊下を走ってすぐ、後ろから激しい罵倒と多くの足音が綾西を追いかけてきた。

 これで捕まったら完全に終わりだ。あいつらに輪姦される。
 一歩踏み出すたびに、痛みが全身を駆け巡り体が悲鳴を上げた。
だけど必死に走り続けた。あいつらから逃げ切るために。

 「はぁ...はぁ、はっ、」

 そしてある程度の距離を保って、曲がり角を曲がった瞬間、俺は階段のすぐ手前にある用具室に急いで隠れた。

 心臓は五月蠅いぐらいに動いて、息は乱れ呼吸がままならない。恐怖からか体はみじめにガタガタと震えていた。

 「...チっ、階段か。おい、お前らは上に行け。俺らは下探すから」

 「じゃあ見つけ次第連絡な。」

 隠れて数秒後にはバタバタと足音がして、その後話し声がすると再び足音が聞こえ1分もしないうちにあたりは静まり返った。

 「...行った、か...?」

 ドアに耳を当て、奴らの気配がなくなったことを確認して俺は廊下に出ようと立ち上がった。

 ―タン...タン...タン...

 だが、誰かの足音が聞こえ俺は動きを止める。
ひどくゆっくりとした歩調のそれは徐々にこちらへと近づいてきた。

 ―仕方ない。一応この歩いている奴がいってから出よう。

 多分、違うだろうがもしもの時のことを考え、俺は用心することにした。

 ―タン...タン...タン...タン。

 「...?」

 しかし、その足音は綾西がいる用具室の前で止まった。

 何故...何故ここで止まったんだ。しかもそれから扉を開けることもなくあたりには再び静寂が訪れた。

 ―この扉越しに誰かがいる。

 俺はできる限り息をひそめた。入ってこない、ということは別段用具室に用事があってきた奴ではないのだろう。それにさっきの奴らだって怪しいと思ったらすぐに中に入ってくるはずだ。

 一体誰がいるんだ。何を思ってそんなところに立っている。

 そんなことを考えるが、答えが出ることはなかった。
 




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