▽ 15
「おい、いつまでついてくんだよ」
「何言ってんの?今日は一緒に学校行こうって言ったでしょ。だからこうしてお前が準備するのも待っててあげてるんだから」
早朝、寮の自分の部屋の前にて。俺は叶江と口論になりかけていた。
結局昨日の夜は大人しく叶江の部屋に泊まり、朝食も強制的に食べさせられてようやく俺は叶江の部屋を出ることができた。
...のだが、こいつは妙なことを言って部屋に帰る俺の後をつけてきた。
もちろん、私服姿の俺とは違って叶江は制服姿できちんと鞄も持った完璧な状態で。
「ほら、さっさと準備して来てさ。玄関で待ってるから」
「あ...ちょ、おい待て、鍵...」
「ん?俺は親切だからね、これぐらい気にしない気にしない」
叶江は俺の手から鍵を奪うとそのまま鍵を開け、勝手に中へと入っていった。
勝手なことをする目の前の奴にイラつき、小さく舌打ちする。
―こいつのこういうところがまた嫌いなんだ。
朝っぱらから続く頭痛はきっとこの男のせいだ。
「...大人しくしてろよ。同室者に起きられでもしたら面倒だ」
「はいはい」
うすら笑いを浮かべる叶江を横目で睨み、俺は靴を脱いで中へと静かにはいっていった。
「...っ!?」
だが、俺は部屋に入った瞬間目にした光景に驚いた。
「なんで俺のベッドに...」
簡素な俺の部屋のシングルベッド。その上では沙原が我が物顔で横になり、気持良さ気に眠っていた。
―あぁ、もうやめてくれ...こういうの。人のベッドで寝たりなんかするなよな。
口元が引くつきそうになるのを何とか耐えて、俺はいそいそと制服に着替えた。
そして着替えが終わるなり、鞄を持つと足早に部屋を後にする。
「おー、どした。なんかさっき以上に不機嫌になってない?」
「...そりゃ誰だって勝手に人のベッドで赤の他人が寝ていたら不機嫌にもなるだろ」
「あー...なるほど。はははっ、てかお前もう沙原をそこまで懐かせたのかよ。まだ全然日も経ってないのに、さすがだな」
「勝手に言ってろ」
周りの変化が嬉しいのか、叶江は嬉しそうに笑っていた。
「愛都君、昨日はどこにいたの?...泰地のところにずっといたの?」
「ん?あ、沙原君」
叶江に漸く解放されたかと思えば、今度はこいつか。
俺は目の前に立つ沙原の姿を見て心の中で舌打ちした。
朝早くに学校に着いた俺は叶江がすぐそばにいることを気にするまでもなく自分の席の机に突っ伏していた。
叶江はそれに対して特に何も言わず、ただ俺の髪の毛をいじったりなど他愛無いことをしてしばらくの時間を過ごし、登校してくる人の姿が増えてくると静かにその場を去っていった。
―それなのに、
それから時間を置くこともなく、沙原が俺の目の前に現れた。
「昨日は綾西君のところへ言った後、昔馴染みの友人の元へ行ったんだ。そしたら久しぶりのこともあって話が弾んでさ、そのまま泊まらせてもらったんだ」
ちゃんと連絡しなくてごめんね、そう言えば沙原は納得のいかない顔をしてふーん、と何度か小さく頷いた。
「ねぇ、愛都君。今日のお昼さ、一緒に食べない?...いや、僕が一緒に食べたい...んだけど、」
片方の手で頭を軽く掻きながら沙原は恥ずかしそうにそう言った。
その返答として俺は“ごめん”そうはっきり断りを入れようとしたが、一端出かかった言葉を飲み込み、考える。
せっかく沙原が積極的に行動を起こしてきているのに、俺が何度も蔑にしていては後々の計画に支障をきたしてしまうかもしれない。
それに今日は叶江の部屋に泊まったせいで昼は用意していない。
購買で済ませてもいいが、今回のところは沙原と一緒に食べることにしよう。
「うん、いいよ」
瞬時にそう結果をだした俺はニコリと笑んで、沙原の誘いを了承した。
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