▽ 14
どうして、俺は叶江の部屋にいるんだ。
― まさか香月とのことは全て夢だったのか?
「...っ」
だが、少し身動きしただけで体中の節々が痛み、あれは現実だったのだと思い知らされた。
「黙って寝てな。お前が気失ってる間に体も全て洗ったからどこも気持ち悪くはないでしょ?事を順調に運ぶには休息も必要だと思うけど」
「...るせぇ、帰る...。帰って、自分の部屋にある自分のベッドで寝る」
「はぁ、頑固だな。俺が寝ろって言ってるんだから寝ろ」
そういうなり叶江は俺を抱きしめる力を強めてくる。その行動のせいで酷使された体が悲鳴をあげ、俺は仕方がなく叶江の言う通りにすることにした。
俺が大人しくしていると叶江は徐々に力を弱めていき、首元に顔を埋めゆっくりと呼吸した。
じわりじわりと広がる温かなぬくもり。叶江はいつもと同様、上半身裸でいるようだった。
そして俺もまた昔同様、服も何も身に纏っていない状態だった。
唯一の救いはダブル用なのか、大きめの肌触りのよい布が掛かっていることだけ。
「...何のつもりなんだよ。今回のこと、全部」
シン、と静まり返っている部屋の中、俺はポツリとそう呟いた。小さな声音だが、それはこの空間ではちょうどいい大きさだった。
「うーん、余興?」
「あ゛?ふざけるな、まじめに答えろ。お前は一体何がしたいんだ。俺に何をさせたいんだよ」
「...なんだろうな。考えてみなよ、その賢い頭でさ」
クックと楽しそうに、静かに笑う叶江に俺は思わず舌打ちする。こっちは真剣に聞いているのになんなんだ。こいつの態度は。
「そうだな。馬鹿なお前に聞いた俺が間違っていた。」
「あー、そういうこと言っちゃう?」
「...。」
「そういえば久々の媚薬の効き目はどうだった?すごく気持ちよかったでしょ?」
「てめぇ...」
「頃合いだと思って泰地の部屋に行ったらなぜか和史がいてビックリしたよ?まさか泰地じゃなく和史にヤられてるとは思わなかったし、お前は半裸で気絶してるし」
あははは、と乾いた笑い声を耳元でされ、俺は目を細め唇を強く噛んだ。
悔しいことだが事実なだけに反論することができなかった。きっと今回のことも叶江が絡んでいるに違いない。
「俺が行った時の和史の顔、すごく面白かったんだよ?こう、人間臭さがない獣って感じ。薄暗い中でギラギラ目だけが光っててさ。俺が止めなかったらきっとそのまま気絶したお前を犯し続けただろうな。」
「...もうあんなヘマはしない。タダで体を売るなんてこと2度とするか。」
「えー、そう。俺的にはいい暇つぶしになったと思うんだけどな。たまには壊れない程度にまた遊んでみたら?」
愛都の髪をいじりながら、そう軽口を言う叶江とこれ以上会話しても無駄だと思い、そこから愛都は口を閉じた。
「なぁ、愛都」
「....」
「なぁって、はぁー、無視?おーい、愛都くーん。返事くらいしてよ。じゃないと俺がぶつぶつ独り言を言ってるってことになっちゃうじゃん。おーい、」
「るせぇな、黙って寝てろっつったのはお前だろ。...疲れたんだ。放っておいてくれ」
薄暗い部屋の中、しばらく目を瞑っていれば段々と睡魔が襲ってきて、今では言われるまでもなく早く眠ってしまいたい気持ちが大きい。
大嫌いな叶江の体温を感じながらでもいい、抱きしめられている状態でもいい。
今はただ眠りに就きたい。瞼は重く、開ける気さえしない。
「ねぇ、愛都。永遠の愛って存在すると思う?」
「...永遠の...愛、?」
「そう。愛都にとって永遠の愛に必要なものは何だと思う?」
「...そんなの、知るか」
そう答えたのを最後に、俺の意識は深い闇の中へと沈んでいった。
「俺はさ、憎しみだと思うんだ。憎しみほど、相手を強く思う感情はないからね」
だから眠る俺の頬にキスをし、そう呟いた叶江のことなど俺は知る由もなかった。
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