▽ 13※
「...綾西君はわからない。俺は...出されたコーヒーを飲んだら眠くなってしまって。今、目を覚ましたばかりだから、なんとも」
今はとにかく綾西のことだけは隠さなければいけない。耳をすましてしまえば聞こえるバイブ音にくぐもった声。
− これは、最悪だ。とにかく何か話し続けなけて香月の意識をこちらに向けなければ...
「目が覚めたら、その...なんだか体が、熱くて...」
「...ふーん」
香月は愛都のことを爪先から頭のてっぺんにかけて、じっくりと舐めまわすかのようにして見てくる。
特にその視線は下着の中で主張しているそこで止まった。
「...っ」
一歩また一歩と近付いてくる香月の表情はいつしか歪んでしまっていた。
ニヒルに笑いすでに綾西のことなど頭にないようだった。瞳は欲に染まり、濁っている。
頭が回らず、上手い言葉が出て来ないが、なんとか香月の意識をこちらに向けさせることには成功したようだった。
そうなれば最早、愛都の脳内は限界を迎えている身体を今すぐになんとかしたいという欲や衝動に駆られる。
「俺がラクにしてやろうか?」
「
ぁっ、くぅ...っ、」
目の前にしゃがみ、囁いてくる香月に次の瞬間には昂りを強く握りこまれ愛都は溜まらず呻いた。
痛みと快感を紙一重に感じ、大量の汗が額をつたう。
「つーかさ、その態度どうにかしろよ。ムカつくから」
「...ぁ...やめっ、香月...く、ん」
「泰地と晴紀のことは知ってるような態度なのになんで俺だけ仲間外れにするんだよ。まさかあの時のことを忘れたなんてことはないだろ?あの時一番最初にお前を犯したのはこの俺だ。俺は忘れてなんていない」
「何...言ってるんだよ。俺が...香月君と会ったのは、ここに転校してからじゃ、ないか...っ」
「嘘ついてんじゃねえよ!」
「う゛くっ!...あ゛...」
愛都の性器を握る手が離されたかと思えばいきなり頬を殴られ、受け身の取れない体は床に倒れた。
頬に鈍い痛みが広がる。
「こう...づき君...っ。君は誰か、別の人と俺を、勘違いしてるよ...」
内心では香月の言動について罵ってやりたいほど、苛立ちが募っているが、なんとか耐えてしらを切り続ける。
ここであっさりキレるわけにはいかないんだ。
「はぁ?勘違い...?んなわけねぇだろ...あぁ、そうか。わかった」
「...あ、やめろっ...!何すん...ッ」
「るせぇ...お前が覚えてないっていうから俺が親切に思い出させてやるんだ。大人しくしてろ。...つっても、今のお前じゃまともな抵抗もできないか」
俺の上に跨り乱暴に服を脱がしてくる香月を止めようと手を伸ばすが、香月の言う通り力が入らず抵抗することができない。
元々俺は綾西相手でほとんどの力を使い切ってしまっているんだ。今、攻められてもやり返すことができないことくらい自分で分かっている。
「いや...だっ」
それでも予定外の香月との行為は何とかしてでも避けたかった。
無意味にこいつらとは身体をつなげたくなかった。こちらに利益があるならいくらでも俺は自分を差し出す覚悟はできている。だけど...だけど今回は...
「触るな!...やめっ、」
肩口に顔を埋められ、強く吸われては丹念に舐められる。それにさえ、快感を拾ってしまう自分の身体。
先程から脳内をグルグルと回っている快感を享受しろという甘い言葉が徐々に強まっていく。
そんな自分が憎くて憎くてしょうがなかった。
「...はっ、エロい身体」
一度上体を上げ、俺を見下ろしてくる奴に俺はきつい視線を向けることしかできなかった。
そんな俺を香月は興奮しきった瞳の中に写し、舌舐めずりする。
そして先ほど俺を犯そうとしてきた綾西と同じようにごくり、と喉を鳴らした。
「すぐに突っ込んでやるよ...前にヤッた時みたいに...激しく、な」
そう言うと香月は再び上体を下ろし、唇を重ねてきた。
『...ぅ、くっ...おい、こんな締めつけて...本当はお前も気持ちいいんだろ?』
激しく揺さぶられる身体。強すぎる快感に対して俺ができることは喘ぎ声を出すことのみ。
体の中がおかしくなってしまうのでは、と思うほど乱暴に突き挿れられているのに...香月は俺をただの性欲処理の玩具のように扱っているだけなのに...
自分か持っているものと同じものを突き挿れられ、犯されることに俺の体は歓喜し悦に浸りきってしまっていた。
『淫乱...男にヤられて、イキまくってよ。はっ、腰動いてるぜ?』
― ちが...っ、俺は...俺は...っ
霞んだ視界の中、見えるのは香月の顔だけ。頬を滑る汗はもはや俺のものなのか香月の頬から落ちてきたものなのかは分からない。
すぐそばの扉を開ければそこには綾西がいるが、気がつくことなく香月は愛都を攻め続ける。
― バカみたいに喘いで、しかも自分で快感を求めるように行動して...。
『お前は...人間以下、だな』
俺を見下す目、嘲笑い蔑む目、目、目。
―いや、だ...っ、そんな目で俺を、見るなっ。俺はお前ら屑とは違うんだ、こんな...こんなことをされていいわけない。もう俺は前の俺とは違うんだから。
『何も、変わってねぇな...お前は男に犯されて、喜ぶ。淫乱...やっぱりお前には犬がお似合いだな、』
― ちが、う...俺は...俺は俺は...っ!!
――
――――
――――――
「 愛都 」
「...ぁ、」
抱きしめられる体。うっすらと瞳を開けるとそこには見覚えのない空間が広がっっていた。
「ここは俺の部屋。そして俺のベットの上」
「...かな、え...?」
後ろから抱き締められているせいで相手は見えないが声でその相手が誰なのかがすぐに分かった。
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