君のため | ナノ
 8



 「わぁ、すごい!!お店のものみたいだね!」

 「そんな、褒めすぎだよ」

 今しがたできた料理の数々を机に並べていった。
 色合いも豊かでいい匂いが部屋中に広がる。

 でも、きっとこれは味気無いものじゃないだろうか。
 ...心も何もこもっていない料理なんだから。

 ―― コンコンコン、

 「ん?誰か来たみたい。俺出てくるから沙原君は先に食べててよ」

 「ありがとう...あ、でも待って!多分和史たちかも。やっぱり僕が――」

 「いいよいいよ。大丈夫だから」

 香月達が来るだろうことは予想していたことだ。
 沙原は食堂でのことを気にしているのだろうが、俺にとってそれはいらない心配だ。

 「やぁ、こんにちは。いや、こんばんは、かな。沙原君なら中にいるよ」

 ガチャリと扉を開けるとそこには綾西を抜かした香月と永妻の姿があった。
 2人は扉を開けた俺の姿を見て、途端に不愉快そうに表情を歪めた。あまり俺の存在に驚かないあたり、俺と沙原が同室であることは周知していたらしい。

 「邪魔だ」

 ガッ、と俺の肩を押して香月が中に入って行き、その後に続いて永妻が中へ入って行く。

 「なんであんたなんかが弥生の同室者に...っ」

 2人が入り、扉を閉めたところで、苛立ちの込められた視線を向けられる。
 永妻は1人立ち止まって俺のことを睨んできていた。

 「弥生になんかしたら許さないんだから」

 そしてそう言われた瞬間――― 俺は、ニコリと笑った表情のまま固まってしまった。

 「あぁ、分かってるよ。その気持ち、すごく理解してるから...。大切な人を傷つける奴なんて許せないよな、そんなことをする奴らなんて...」

 俺の纏う空気が淀んでいくのを感じたのか、永妻はジリ、と一歩後ろへ下がった。
 そんな永妻の華奢な腕を骨が軋むほど強く掴んだ。ヒッ、と永妻は肩をビクつかせ俺のことを見てくる。

 「俺も...許さねぇから」

 「...っ」

 耳元でそう囁いた瞬間永妻は青ざめた顔をして、ドンと俺の胸を押すと足早に沙原たちがいる方へと逃げるように歩いて行った。

 「はっ、バカだなぁ」

 俺の大切な人間を平気な顔で傷つけておきながらさ...。自分のことは棚に上げてあんなこと言うなんて。
 いったい自分のことを何だと思っているのだろうか。

 沙原に虜の3人のうち、1番永妻はプライドが高く人間関係については潔癖だ。
 特別な存在、興味を持った存在以外には冷たい態度をとり、嫌悪ばかり曝け出してくる。ある意味、そこら辺は叶江と似ているといえる。

 ―― あぁ、嫌な性格だ。

 「どうかしたの、愛都君」

 「あ、ううん、なんでもないよ」

 中々戻らない俺を心配してか、沙原はひょこっと玄関の方を覗いてきた。
 居間と玄関をつなぐ廊下で立ち止まっていた俺を見てまだ沙原は不安そうな顔をする。

 「ごめんごめん、それより夕飯はどう?おいしくできてたかな?」

 そんな不安そうな沙原を安心させるためにスタスタと歩き、居間の方へと行く。もちろん、いつもの“笑顔”を忘れることなく。

 「うん、おいしい!すごくおいしいよ!!」

 「それは良かった。...あ、よかったら永妻君と...えと、」

 「香月 和史だよ、愛都君」

 「あっ、教えてくれてありがとう。...香月君と永妻君も夕飯食べていってよ、俺が作ったのだけどさ。遠慮なく...」

 「お前が作ったものなんて気持ち悪くて食いたくもねーよ」

 「僕もそんなの食べたくないね」

 ピシャリ、と俺が言い終わる間もなく香月と永妻がそう言い切る。
 まぁ、そう言われることなど予想はしていたから痛くもかゆくもないが。
むしろ俺も別に2人の為に作ったわけではないのだ、食べてもらわなくて結構。

 「和史!晴紀!どうしてそういうことを言うんだよ!愛都君が頑張って作ったものを...。
 僕は愛都君が作ってくれたのを食べるから食堂には行かない。わざわざ迎えに来てもらったところ悪いんだけど2人ともここで食べないんだったら、今日は別々で食べよう」

 しかし、沙原はそれを見逃すはずもなく2人に対して怒りをぶつけた。そして俺の手を掴むとそのまま座席へと向かい“じゃあ食べようか”と優しく微笑んできた。

 チラリと2人を横目で見ると、酷く歪んだ表情をした姿が視界に入った。

 ―は、いい気味だ

 嫉妬で歪んだ表情を見ると心が清々しくなっていくのを感じる。

 「弥生が食べるなら僕も...食べる。弥生と別々なんて嫌だし、」

 「...」

 永妻は目線を下げ自棄気味にそう告げると、無言のままの香月とともに席に着いた。
 四角い形の4人テーブル。俺の隣には沙原が座っていたので2人はその正面に座っている。

 「なんかごめんね。でも、味はそんなに悪くはないと思うから。2人の分の箸とご飯持ってくるね」

 「僕も手伝うよ、」

 「いや、大丈夫。沙原君は食べてて」

 手伝いを申し出る沙原を止め、俺は1人立ち上がるとキッチンへと向かった。

 そう言えば綾西は今頃何をしているのだろうか。俺が恐くて部屋に引き籠ったか?
 綾西なら1人で食堂に行くこともなさそうだし、多分何か買って食べるつもりなのだろうが。

 ― いくつか料理を持っていく口実で様子でも見に行ってみるか。

 そう考えた俺は2人分の飯と箸を用意すると他に白飯を入れた弁当箱を持った。
 そして3人の元に戻り2人に用意したものをそれぞれすぐ前に置いてやると、俺は席にはつかず持ってきた弁当箱へとおかずを詰めていく。

 「ねぇ、沙原君。綾西君の部屋の番号教えてもらってもいいかな?」

 「え、あ、泰地なら307だよ。もしかしてそのつめたやつ泰地の分?渡しに行くの?」

 「うん、そうだよ。たくさんあるし、おすそ分け。俺ちょっと行ってくるね」

 「ま、待って愛都君!あの、さっき和史達から聞いたんだけど、泰地今日は用事があって部屋戻るの遅くなるって言ってたらしいよ。
だから今行ってもいないかも...メールも繋がらないから、いない可能性大だよ」

 「そうなんだ。教えてくれてありがとう。でも、行くだけ行ってみるよ」

 弁当のふたを閉め、てきとうに鞄に入れる。最中、香月と永妻の訝しげな視線が刺さったが、俺はそれに目もくれずてきぱきと行動した。

 「それなら僕も行くよ。泰地の顔も見たいし」

 「うーん、でも香月君と永妻君ご飯食べたばかりだし...それに2人とも沙原君に会いに来たんでしょう?やっぱり沙原君はここにいないと。綾西くんには俺からよろしく言っておくよ」

 「...そっか、そうだよね。うん、僕和史達と待ってるよ。愛都君の分もおかず残しておくね」

 「ありがとう。それじゃあ行ってきます」

 軽く手を振れば沙原はそれに笑顔で振り返してくれたが、永妻はガン無視、香月は横目で睨んでくる、と冷たいものだった。
 ...まぁ、沙原のように笑顔で振り返されても困るし、気持ち悪いだけだが。





prevnext

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -