▽ 25※沙原side
僕を見て、可愛い、可愛いとみんなは言った。双子の弟は全く似ておらず、より一層僕を映えさせる材料に過ぎない。
自分に近づきたい、好きだとわらわらと虫のように湧いてくる人間は皆同じ欲にまみれ汚かった。
それでも周りにもてはやされる空間はすごく居心地がよく、こんな生活もありかな、なんて思ってた頃。
― 僕は君を知ってしまったんだ。
初めて写真を見た時、思わず息をのんでしまった。端正な顔立ちは人に媚びることを知らないのだろうと思わせるほどに凛としていた。
会ってみたい、自分のものにしたい。一目見てそう思った。
そして実際に会ってみてわかった。甘い優しさに隠された鋭い眼光。
だけどそれは自分には向けられていなかった。それもそうだ。何故なら僕は自分の手は全く汚していなかったから。ただ周りのみんなが動きやすいように少し助言をしただけ。
君に、利用されていたのは知っていたが、僕も知らないふりをした。最後に甘い蜜を吸うのは自分なのだから、と。君は何も知らないまま僕のものになると思っていた。いや、確信していたから。
― それなのに
「もう、全部知られてしまったね」
どちらの白濁かわからないほどに汚れてしまった愛しい人。自分を激しく攻めたてる愛都も愛しいが、自分の下で女のように喘ぐ愛都も愛しかった。
全てを知られてしまった今、もう元には戻れない。自分のものにはならない。
「好き...好きなだけなんだよ...」
沙原は床の上で息絶えだえの愛都に覆い被さるようにして抱きしめ、頬を撫で見つめる。腹にできた痣を撫でれば愛都はビクつき、その拍子に尻から白濁を垂れ流す。その姿も、あぁ、愛おしい。
虫けらからの暴力よりも愛都を他の奴に取られる方が身を引き裂かれるほどに辛い。同時にこんなにも自分が苦しんでいるのに、手に入らない愛都に憎しみすら感じる。
「きもち、わるいんだよ...お前」
― ほら、そうやって君は僕を苦しめる。
愛都の一言に沙原は涙を流し、笑った。愛しい人の嘘偽りない本当の気持ちは狂った自分の胸にも痛烈に響いた。
「君は僕のものだ、ずっと、僕と一緒にいるんだよ」
沙原は愛都から離れるとある物を手にして戻る。
「すごいよ、愛都君は、本当に。僕が手を汚すなんて初めてなんだから」
沙原の手元に光る、それは愛都をおののかせるには十分のものだった。
「他の奴に愛都君は渡さない。一緒に死のう、ね?」
そこからの沙原の動きは早かった。
「い゛っ...ぎ、あ゛あ゛ぁ゛ッ、」
沙原の手にあった包丁。その切っ先は愛都の腹に刺さっていた。感じたことのない激痛に愛都は叫び、生理的な涙を流す。
そして沙原はそれを抜くと今度は自身の腹にも突き立て、勢いよく抜いて床に投げ捨てた。
膝をつき、ゆっくりと愛都の上に倒れる沙原の体。
あたり一面に広がる赤。2人のものは合わさり大きな水たまりを作る。
「愛してるよ、愛都君」
薄れていく意識、愛都の息遣いも浅くなっていく。
― あぁ、幸せ。これでずっと繋がっていられる。君は僕のものだ。僕が自身の手を汚したのはこれが最初で最後、悔いはない。だって、これで愛都の最期、心身ともに深く刻まれるのはこの僕だから。僕が愛都のことを想うように、愛都も僕のことだけをみて僕のことだけを考えて死ぬんだ...たとえ、憎しみでも。
そう、僕だけを...
「よい...と、」
なのに、最後に聞こえた愛しい人の声は他の男の名を呼んでいた。
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