▽ 22※綾西side
「ようやく弥生のことも愛都から離せた。あー、スッキリ、スッキリ」
弥生を連れ込む部屋の準備を終えた綾西は清々しい顔をして寮の廊下を歩く。着々と愛都の周りからは害虫が消えていく。一人、また一人と。
ニタリ、と綾西は弧を描くようにして目を細める。
「わー、怖い顔。君は自分が捨てられるっていう可能性を考えていないのかな」
「...恵っ、るさいな...俺に話しかけないでくれる、煩わしいから」
声のする方を向けば静かに佇んでいた恵叶江と目が合った。普段は目が合うどころか話すことさえない2人の間にぴりついた雰囲気が漂う。
「あぁ、勘違いしないで。俺だってお前に話しかけるのは嫌さ。ただ一言言っておきたいことがあってね。」
そういうと叶江は壁にもたれていた背を離し、綾西のもとへと歩み寄ってくる。一瞬その圧に気圧され身構える綾西だが、叶江はそれを鼻で笑い一蹴する。
「愛都を支配できるのはこの俺だけ。ずっとずっと俺の掌の中で転がり続けるんだ」
「...何言ってんの?妄想言うのも大概にした方がいいよ」
「...妄想、ね。もしかしたらお前もその俺の妄想に感謝する日が来るかもしれないぞ」
終始口元を卑しくニヤつかせる叶江だったが目は笑っていなかった。感情の読めない瞳に光はない。綾西は得体のしれない恐怖を感じた。
「愛都を理解できるのは俺だけさ。支配できるのも。俺の手元にいなくてもな」
いつも突拍子もない言動ばかりが目立つ叶江だったが、今日はそれに拍車がかかっているように感じた。
愛都が壊れていくにしたがって叶江も盲目的に狂っていく。
「愛都は俺のモノになるんだよ。恵のじゃなくてな」
話についていけない、とそう一言告げると綾西は叶江に背を向けて歩き出した。
叶江がその後何か言ってくる気配はなかった。
「...っ」
苛立つほどに手が、震えている。
「あー、うざ...」
小さく呟いた声も、震えていた。
角を曲がるその時まで、鋭い視線を綾西は感じていた。
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