君のため | ナノ
 8



 「...ぁ、ここ...は、」

 次に目を覚ました時、一番最初に視界に入ったのは見覚えのある家具たちだった。

 その家具たちの持ち主はあいつ――叶江だ。

 きっと気を失っている間に叶江の部屋に連れて来られたのだろう。

 しかしなぜ俺が...

 この部屋に自分以外の存在は感じられない。
宵人はここには連れて来られていないのか...。

 とりあえず今はここから出よう。考えるのは後だ。

 今宵人を1人にしておいてはいけない。俺がそばで見守っていなければ...。

 そう思い体を動かせば長い時間床の上に放置されていたのか体の節々が軽く痛んだ。

 「...っ、なんだよ、これ...」

 そして自分の首についている忌まわしい存在に気がついた。

 ――首輪だ。俺の首に首輪がついている。

 それは壁と鎖で繋げられていて立ち上がろうとすると、長さが足りず首をひどく締め付けられてしまう。

 ここに誰もいないうちにどうにかしてここから出ていけないか、と必死になって首輪に手をかけるが当の首輪は革製のものなのかビクともしない。

 段々と焦り始め、手汗を掻いてしまい余計に首輪をどうにかすることが出来なくなってしまった。

 「無理、か...。なら鎖を...」

 そして仕方なく別の手段で何とかしようと考え、行動に移そうとした時後ろの方からガチャリ、とドアを開ける嫌な音が聞こえた。

 「あ〜、やっぱり起きてる。ね、言ったでしょ。なんか物音がするよーって、」

 「はいはい、そうだね。泰地の言う通り、さすが泰地。...はい、これでいいでしょ」

 「うわ〜、晴紀冷たっ!そう思わない?和史、」

 「...さぁな」

 後ろを振り向けばそこには見覚えのない男が3人いた。
 しかし所々で聞こえてきた名前から奴らが宵人をイジメてきた中心人物たちであることが分かった。

 「お前ら...っ」

 薄暗い部屋の中、キッと三人を睨みつける。

 何故こいつらがここに...。一体叶江は何のつもりで...。

 「あははーっ、初めまして。俺たちは宵人君専用のいじめっ子です!俺は綾西 泰地、今日はよろしくね宵人のお兄さん」

 すると、バカそうな口調の泰地と言われていた男が俺の目の前まで近づいてきた。
 二重のアーモンド型の目は細まり、口は弧を描くように上がっているその顔は、一見すれば愛嬌のあるものだが、宵人のことを考えればそれは狡賢い狐のようにしか見えなかった。

 「っざけんな!!...う゛くっ...」

 憎しみを込めて拳を綾西に向けるが、当たる寸前で綾西ではない第三者によってその手は強く掴まれ、阻止された。

 「話せっ、この野郎っ!」

 「うっわ、危なーい!ありがとう和史。俺のこのビューティフルな顔を守ってくれて」

 「別に」

 俺の腕を掴む短髪の男を睨みあげるが、そいつは冷めた目で俺を見下ろすだけだった。

 香月 和史...こいつが宵人の顔や体に傷を...っ。

 「ちょっと、皆行動力ありすぎだよ。僕だけ乗り遅れちゃったじゃん。って、なに和史は愛都君と見つめ合っちゃってるのさ」

 「...は?俺は別に...――っ!」

 「お前は一番許さない!!」

 腕を掴まれているなら、と足を振り上げ香月の太股あたりを蹴る。
 体勢が体勢なだけに上手く力が入らなかったが、注意を引かれていた香月は横へふらつき、反動で俺の腕を離した。

 「はははっ、大丈夫?和史、お兄さんの方は宵人君と違って活発だねぇ」

 「和史油断しすぎだよ。恵も愛都君に薬も何も飲ませてないって言ってたんだから、暴れられることくらい予測しないと」

 そんな香月を綾西は笑い、永妻は注意をする。そして香月は――

 「―がっ...ぅ、くっ...」

 「あいつの兄弟のくせにクソ生意気な...」

 一瞬の間に首を掴まれ壁に押し付けられる。
 強い力で首を絞められ息が全くできない。本能的に香月の手を離させようと引っ掻いたり掴んだりするが、一向に絞める力が弱まることはなかった。

 「...ぁ...かっ...ぅ、」

 「は、いい顔するじゃねぇか」

 そしてそんな俺の顔を見て香月は冷たい瞳を一瞬輝かせた。

 ギリ、と首を絞める音が聞こえる。徐々に意識も薄くなり抵抗する力もなくなっていく。

 「...ぁ...かはっ、ぅ、げほっ..けほっ...く、」

 「ダメだよ和史、こいつは俺の犬なんだから勝手に殺しちゃ」

 「...恵」

 視界も霞み、生を手放しかけた時急に手が首から離れ、大量の酸素が器官を通って肺へと入っていく。

 床に手をつき、激しく咳き込みながらも頭の中にあるのは今しがた聞こえたあいつの声。
 俺を犬と言い、自分とは同等に扱おうとしない横暴な奴。

 「いいか愛都、お前は駄犬なんだ。だから躾をし直してやるよ。...いや、半分は罰かな」

 叶江は俺の前から香月を退かし、正面でしゃがむと俺の顎を掴み上へ向かせてきた。

 「お前が悪いんだよ。大人しく俺の言うことを聞いておけばよかったのに。」

 「...な、にを言って...」

 「ちゃんと近くで見ててやるよ。せいぜい可愛く鳴いて可愛がってもらえよ」

 ニヒルに笑い、それだけ言うと叶江は俺から離れて隅にあるソファに腰を下ろした。

 そして代わりに3人が俺の周りを囲む。

 あぁ、俺はリンチされるのか。しかも相手は宵人をイジメていたという憎いやつら。

 叶江が奴らとどう知り合ったのかは分からない。つながりも見当たらない。
 しかしあえてこの三人を用意したということは、叶江自身きっと宵人のいじめについて知っていたからに違いない。

 仮とはいえ宵人の恋人であったのにあいつは何もしなかった。宵人のいじめも見ないふり。
 宵人を守ることが出来る立場にいながらも、手を差し伸べるどころか無視さえする。

 わかっていた、叶江はこんな奴だって...最低な、奴だって。
 それでも俺の心の中につもる怒りは止まることを知らない。

 「それじゃあ楽しもうかぁ、もう俺たちも宵人君には清々してるからさ〜。愛都君でストレス発散、いや性欲発散させてよー」

 「そうそう。僕たちが愛都君を傷つければきっと宵人君もこれに懲りて弥生には近づかなくなるだろうし」

 「ふざけ――んんっ、」

 「要はあれだ、お前は黙って俺たちに犯されればいいんだよ。」

 皆何を言っているんだ。お前らは俺に暴力を振るうだけだろう?
 痛めつけてわけのわからない理由で間接的に宵人を傷つける。...それがお前らのバカな考え方じゃないのか。

 香月に手の平で口を押さえられ、何も言い返せないままに俺は床へ押し倒される。

 「和史、ちゃんと抑えつけといてねぇ。暴れられたりして俺の顔に傷が出来ちゃ困るしさ〜」

 「うるせぇ、ナルシスト。黙って、やることだけやってろ」

 綾西とそんな会話をしながらも香月は冷めた目で俺を見て着々と動きを封じていく。

 俺よりも強い力で腕を上にまとめられる。
手がダメなら先ほどと同様今度は足で、と行動に移そうとするがその考えはあっさり香月に読まれ、空いている方の手で足首を掴まれる。

 そして、そのまま香月は無理に俺の足と足の間に入りついに俺は手も足も自由が利かなくなってしまった。

 「い、やだ...っ、やめろ!触るな!!」

 「うるせぇな...おい晴紀、こいつの手押さえるの代われ」

 「いいよ。手ぐらいだったら僕でもいけそう」

 すぐ近くで楽しそうにこちらを見ていた永妻は香月に言われるまま、俺の腕を床に縫いとめる。

 「愛都君、近くで見るとますますかっこいいね。この顔がこれから快感で歪むだなんて...楽しみだな」

 「黙れっ、俺は――、んんっ...ぅっ、」

 怒鳴っている途中で唇が塞がれて言葉は呑み込まれてしまう。

 俺に唇を重ねてきた永妻は恍惚そうな顔をしながら茫然としている俺の口内へ舌をねじ込んできた。

 流れてくる唾液、体温が気持ち悪くて顔を背けようとするが、永妻は空いている手で俺の顔を押さえて固定させる。

 「...ん...ふぅ...ん!んんっ!」

 そんな中いつの間にか俺のベルトを外した香月はひとまとめにズボンと下着を下げ、下半身にヒヤリとした冷たい空気が纏う。

 抵抗もできないまま左足から脱がされズボン、下着は右足の膝あたりまで通されているだけという羞恥の状態にされる。






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