多幸感 | ナノ
 3※



 「どういうつもりだよ、あいつ...」

 トイレの鏡の前で大和は顔を真っ赤にして頭を抱える。濡れた下着を押し上げ硬く張り詰めるそこはドクドクと脈打ち静まるところを知らない。
 こんな状態で人前に出ればそれこそただの変態だ。自分で抜くなり、落ち着かせるなりしなくてはと考えていれば後ろで扉が開き足音が近づいてくる。
 自身のすぐ後ろで止まる影。恐々と顔を上げた大和の視界に映ったのは鏡越しにこちらを見つめる2つの瞳だった。

 「うわぁ、顔真っ赤」

 弧を描くようにして笑む男の息遣いをすぐ耳元で感じてぞくりとした。
 
 「お前...何したか分かってんのかよ」

 「えー、口で説明して欲しいんですか?大和先輩、えっち」

 「...っ、やめろよ、こういうこと。いつ人が来てもおかしくないし...」

 さも、それが自然体であるかのように阿澄は大和の体を優しく抱き寄せその頬を撫でる。力では大和の方が上なはずなのにまるで鎖で縛り付けられているかのように、体は動かなかった。

 「人が来なければいいんですか?」

 「...だから、揚げ足とるなって...っ、」
 
 つい先程同じようなことを言われたばかりだ、と大和は思わず口籠る。
 どうしてだろうか、他の男にされたら吐き気がするほど嫌なことなのに阿澄にされて嫌な気はしなかった。それよりも人に見られると困る、ということばかりが脳内を占めていた。

 「俺は先輩とえっちなことがしたいのになぁ」

 鏡に映る、感情の読めない澱んだ瞳。心の隙を突いてくるその瞳と言動に抗えない現状はまさにデジャヴであった。
 
 「ほら、こっちに来て。少し俺と遊びましょうよ」

 「なっ、ちょ...待って、っ」

 突然、グイと引かれる腕。上手く踏ん張ることもできず大和はつんのめりながら阿澄がいる方へと引き寄せられた。
 そうして、後方でバタンと扉が閉まる音が耳に届く。えっ、と思った時にはすでに大和はトイレの個室へと連れ込まれていた。

 「ぅあっ、あ、阿澄...っ、」

 それからの流れは早かった。阿澄は慣れた手つきで大和の両腕を掴むとそのまま壁に押し付ける。阿澄に尻を突き出すような形で動きを封じられ大和は耳まで真っ赤になった。

 「前から思ってましたけど先輩、体のライン綺麗ですよね。...自覚してます?」

 「男から見てもあんたの体は美味そうなんだよ」耳を舐められそう掠れた声で囁かれれば下半身がぞくりとした。

 「ちょっと、落ち着けよ阿澄...俺、男だしこういうのは...」

 「ここカチカチにして何言ってるんですか。寝言は寝て言えって言葉あるの知ってます?」

 「ぁあっ、く、ぅ...っ、」

 ズボン越しに硬く張り詰めたそこを揉まれ快感の波が押し寄せてくる。途端に大和の体は崩れ落ちないよう足に力を入れることしかできなくなってしまった。
 
 まただ、また自分はこの男に抗えない。
 それでも、脳内には麻衣子の存在がちらついていた。自分はこうやって何度も麻衣子を裏切っていくのだろうかと。そんな自分が不甲斐なくて情けなかった。

 「大丈夫ですよ、先輩。今は何も考えないで俺に身を任せてください。流されたっていいじゃないですか、今を楽しめれば。ずーっと縛られてきたんでしょう」

 そんな時だ、まるでこちらの考えが見えているのだろうか、と思うような発言に目を見張る。驚き思わず後ろを振り返った瞬間、カチャカチャという金属の擦れる音とともに下半身が冷気に包まれた。
 
 「ひっぁ...っ、」

 「あははっ、沢山出たんですね」

 晒された白濁まみれのそこを、阿澄は躊躇なく触り扱いてきた。

 「イキたいんですか?我慢汁すごいですよ...ほら、滴って床汚しちゃってる」

 「そんなわけ、な...いっ、」

 目を瞑り快感を噛み締める。見なくても自分の下半身が今どんな状況かなんて分かっていた。それでもそれを素直に認めることはできなかった。

 「これくらい、濡れてたらいいかなぁ。先輩、処女だろうし優しくしてあげますからね」

 「はっ...処女って...っ、!?」

 撫でられるようにして触れられるそこは、もちろん麻衣子にだって触られたことがない場所で。

 「先輩、ヒクついてますよ...」

 「お前、どこ触って...や、やめっ、ああ゛、ひっ...」

 つぷり、と中に入ってくるそれに全身の鳥肌が立つ。痛み以上に現状の読めなさで頭がついていかなかった。





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