多幸感 | ナノ
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 「ぐしょぐしょですね」

 他人事だと思っているのか阿澄は頬杖をついたままニヤニヤと笑っている。
 大和はというと羞恥で頬が赤く染まり唇を戦慄かせるばかりであった。

 こんな公共の場所で、後輩である阿澄の足で...自分は酷く興奮してしまった。その結果がこれであったのだ。
 これが阿澄のいう本性?それじゃあ自分はとんだ変態野郎じゃないか。

 しかし、依然として反論することはできず俯きつつも目線だけを阿澄へと向ける。
 ばちりと絡み合う視線。その瞳はまるで獲物を見つけた獣のようにギラついていた。
王子様と言われる、爽やかな風貌には似合わない獰猛な瞳。

 喰われる。そう本能が囁いた。


 「あれ、あそこにいるの麻衣子の彼氏と王子じゃん」

 その時だった。タイミングが良いのか悪いのか、そう声が聞こえたのは。

 「...麻衣子」

 声がした方へ顔を向ければ4〜5人の集団が店内へと入ってくるところであった。そしてそのうちの1人は大和の正面にいる男の姿を認知するなり歪んだ顔をしてこちらを睨んできた。元が美人なだけあっていやに迫力がある。大和の口元は自然と引き攣ってしまった。

 「...ここにいたの、大和。もう帰ったと思ってたわ。ちょうど今テニサーのみんなと休憩に来たところで」

 しかし、友人達の手前ということもあり麻衣子はこちらに近づきながらもいつもと同じように振る舞う。
 一歩一歩と麻衣子が近づくたびに大和は更に冷や汗を掻いていった。

 阿澄と自身が一緒にいることを未だに嫌がる麻衣子。最近はなんとか誤魔化して阿澄と会っていたのだが、今日に限っては本当に偶然だ。だが、麻衣子からすれば2人が会っているという事実に変わりはないのであろう。
 大和は頭を抱えたい気持ちをなんとか抑えて機嫌が悪いであろう麻衣子に笑いかけた。

 「あぁ、レポートを終わらせようと思ってさ。そしたら偶然阿澄と会って...」

 「どーも、麻衣子先輩」

 首を傾げにこりと爽やかな笑みを浮かべる阿澄に麻衣子の後ろにいたテニサーの女子達はざわつき始めた。
 その瞳には見るからにハートが浮かんでおりほんのりと頬の血色が良くなったようである。
 最近慣れて忘れていたが元々阿澄は学内でもアイドル並みに人気者なわけで。
 挨拶一つ、笑顔一つで大抵の人間は頬を赤く染めて笑顔を返すのだ。もちろん、麻衣子には全く効かないが。

 「そう。でも阿澄君がいるならもうレポートもやめかしら?」

 遠回しに阿澄と話してレポートが出来ないなら家に帰れと言われているのがわかった。苦笑しながらも「いや、レポートもひと段落したしそろそろ帰ろうと思ってたんだ」そう言えば心なしか麻衣子の表情は和らぐ。

 とりあえずホッとする大和だが実のところそれ以上に自身の下着が気になってしょうがなかった。麻衣子と話しながらもぐっしょりと濡れてまとわりつくそれに何度も意識が向いてしまう。

 気持ち悪さと背徳感が湧き上がる。

 今の自分の状態をもしも麻衣子が知ればそれこそここが修羅場化することは目に見えていた。自分自身早く帰って着替えたい気持ちが競る。

 「それにしても学年も違うのに2人は仲良いよね。特に大和君なんて正直麻衣子以外の人と話してるところあまり見ないくらいだから」

 「学校でも有名だよね!王子が唯一大和君にだけワンちゃんみたいに懐いてるって」

 「バカ、ワンちゃんなんて言ったら王子嫌がるでしょ」

 麻衣子の背後でそう話すテニサーの女子達。ワンちゃんの前に王子と言われるのもそもそも嫌ではないだろうか、と思うが当の本人はヘラヘラと笑うだけで特に気にした素振りは見せなかった。

 「俺の写真を初めて褒めてくれたのは大和先輩なんですよ。それが嬉しくて...仲良くさせてもらっているのはそれからですね」

 コーヒーを一口飲み阿澄はこちらに笑顔を向ける...親愛の意を込めた眼差しで。
 そうすれば一気に大和には多くの羨む視線が向けられた。

 褒めたっていうか、なんというか...誰にも話せない写真の内容に大和は口籠る。

 「それよりも大和、部への写真まだ提出しないの?期日もう少しだよね、大丈夫?」

 「あー、まぁ、大丈夫。なんとか...―――っ、」

 「ん?どうかしたの」

 その時だ、再び性器に“何か”が触れたのは。
 ねちょり、と自分の中でわかる音が聞こえ血の気が引いた大和は思わず阿澄の方へ目を向ける。

 「やっぱりテニサーの人たちって綺麗どころが多いですよね。綺麗なお姉さんが多くて俺も入りたくなっちゃいます」

 しかし、阿澄はこちらを気にすることなくテニサーの女子達と談笑していた。それでも器用に動き続ける指に裏筋の部分をなぞられ再び大和のそこは硬く張り詰めていく。

 勘弁してくれよ...っ、

 そんな思いが届いているのかいないのか、嫌がらせのように足の動きは大胆になり熱が下半身に集中していく。心臓はうるさいくらいにバクバクと鳴り頭がおかしくなりそうだった。

 そうして視線を前に向ければ突然様子がおかしくなった大和を心配する麻衣子と目が合う。

 やばいやばいやばいやばいやばい...っ

 「ぅ...ぁ、悪い、トイレ行ってくる」

 大和は勢いよく立ち上がると逃げるようにして店内のトイレへと駆け込んだ。後ろから名前を呼ぶ麻衣子の声が聞こえたがそれに反応する余裕が今の大和にあるはずがなかった。





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