最後に笑うのは | ナノ
 その2



 「俺たちに必要なのは、何だと思う?」

 情事後の濃密な雰囲気の中、日向は隣で横になっている穂波にそう、問いかける。

 あれから1年半。精神病院にいただけあって、穂波は以前のように暴れるということもなくなり、日向のことも松高とは呼ばなくなった。

 「もちろん、金は必要だよ?これがなきゃ、この世界では生きていけないからね」

 退院してからはもうずっと監禁生活を送らさせられている穂波。

 外の世界のことは窓から覗ける範囲でしかわからない。テレビはあるが、ニュースなどは見ることを禁止され、DVDなど映画鑑賞のためにしか使われない。
 人気も少ない、町はずれにいることで外部からの情報もなく、今の穂波にはまさしく、日向と一緒にいるこの時だけが幸福の時間だった。

 毎日、日向の帰りを玄関で待ち続け、日向が帰ってくれば終始ベッタリと張りついて傍から離れようとしない。

 ― 今の穂波には俺しかいないんだ。俺が穂波の世界の中心

 穂波は日向の言うことは何でも従い、日向だけを求めた。

 「それ以外でさ、穂波は何が必要だと思う?」

 大学生の頃は日向と同じ身長で同じ体格だった穂波も、今では筋力も落ちシュッとして、スレンダーさが目立っていた。
 そんな艶めかしい体を一瞥し、背中から腰までを撫でるようにして指で触れる。

 「俺は...―――― 」

 「あっ、ちょっと待って。一つ確認するけどさ...」

 答えを述べようと口を開く穂波の言葉を遮る。そして日向は口角を上げて言葉を紡いだ。

 「まさか、“愛”が必要...なーんて、言わないよな?悪いけど、俺はそう言うの必要ないからさ。」

 それは一生、変わることはないであろう考え。

 「愛なんてのは俺たちの仲にあってはいけない、邪魔な存在だと思うんだ」

 そう言えば、穂波は縋りつくようにして日向に抱きついてきた。

 ドクドクとなる心臓の音は耳から脳へと伝わり、脈打つ心臓の鼓動は肌から脳へと伝わる。
 温かな体温。肩にあたる、さらついた髪の毛。

 「俺は日向がいればいい。あとはいらない」

 顔を上げた穂波に耳元でそう囁かれる。

 「あぁ、俺もさ。...俺たちに必要なのは互いの存在だ。他は必要ない。第三者なんかもいらない」

 2人だけの世界。独占欲が満たされ、飽和状態が維持される世界。


 「  もう逃がさない  」


 そう呟いたのは、どちらなのか。

 部屋が暗闇に包まれる中、最後に見たのは互いの歪んだ笑みだった。


 end.





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