最後に笑うのは | ナノ
 8※



 「ねぇ、わかる?僕のを穂波はぎゅうぎゅう締めつけてるんだよ、」

 「ふっ、う゛!ん...ん゛んッ!!」

 続く律動。ギリギリまで抜いては奥深くまで突き挿れられ、その度に穂波は唇を噛んで声を抑え込む。
 吐き気を催すほどの気持ち悪さと、中を擦られ抉られる快感が交互に降りかかり、生理的な涙が止まることなく流れ続ける。

 「穂波...あっ...ほな、み...穂波、イキそ...ッ、」

 そして徐々に早くなる腰の動き。前立腺をしつこいほどに抉られたせいで勃起した性器が二葉の腹に擦れては潰され、すぐにでもイキそうだった。
 中で大きく脈打つ熱い昂りは絶頂に向かってぐん、と大きさを増す。

 「...ッ!!ぁ、い...嫌だ!!ぁ...ああっ、ん゛...やめッ!!」

 その瞬間、体の奥深くに熱いものを穿たれた快感がした。二葉は体をビクつかせ、穂波の体の上にそのまま凭れかかってくる。

 「あっ...はっ、ぅ...とまんない、きもち...ぃ、」

 「...ッ!!!あ゛あ゛ア゛あぁあぁぁッ!!抜けッ!!抜けよおぉぉッ!!」

 不意に掴まれる性器。二葉は吐精しながら腰を打ち付け続け、それに合わせて穂波の性器も上下に扱き始めた。
 もうすでに穂波に理性など残っておらず、拒絶という感情のみで体は動き、叫んでいた。

 「あははははッ!すごい、穂波もたくさん...」

 二葉が吐精し終え、一度性器を抜いてから一気に奥まで捩じりこむ。そのつきぬけるような快感で穂波は呆気なく絶頂を迎え、大量の精子を二葉の手の中に吐き出した。

 「...ッ、」
 
 ビクつく肢体。ついに穂波は四肢を投げ出し、人形のように動かなくなった。

 「穂波...好き...ふっ、ぅ...大好きだよ。...絶対に誰にも渡さない。」

 頬や唇を舐められ深い口づけをされる。歯列をなぞられ、舌をかまれては強く吸われた。
溢れ出る唾液は口の端から伝い、こぼれては二葉がそれを舐めとった。

 それの繰り返し。中に挿れられたままの二葉の性器。穂波は既に抵抗も何もする気力が残っていなかった。


 ――


 ―――――


 ―――――――――


 しかし


 最悪な出来事は


 これで終わりではなかった。


 ―――――――――


 ―――――


 ―――


 「 ただいま 」

 静かなその室内に、居るはずのない人物の声が響く。

 「おかえりなさい。今日は帰ってくるのが早かったんですね」

 ずるり、と性器を中から出しながら二葉は何の変哲もない声音である方向を向き、笑いかける。
 対して穂波は声を発することなく、二葉が見ている方向へ顔を向けた。

 そこにいるのは冷めた目のままこちらを見下ろす日向の姿。次にはその視線は塞ぐものがなくなり、垂れ流れる白濁に向けられた。

 「この気狂いが...」

 そしてその言葉と同時に、ついに穂波の精神は崩壊した。

 無表情の日向。足を掴まれ引きずられるようにしてベランダまで連れられる。そして外に出された瞬間、ヒヤリ、とした冷たい空気が体を包み込んだ。
 投げつけられる衣服。大きな音を立ててしまるベランダの扉。

 両手は未だ後ろ手に縛られたままだったが、穿こうと思えばズボンは穿けそうだった。しかし、四肢は動かず投げ出されたままピクリとも動かなかった。

 何を考えるでもなく、ただただ見上げて空を見続ける。雨は止み、薄暗い曇天がひろがる。コンクリートの床は冷たく、容赦なく穂波の体温を奪っていった。
 少し顔を横に向ければ、一軒家の屋根や木々の天辺が視界に入る。
 日向の部屋はマンションの最上階の1つ下だった。高い高い位置。それは飛び降りてしまえば命の保証はできないであろうほど...

 「 ほーなみ 」

 その時だった。いつの間にか開けられたベランダの扉。ひょっこりと現れた二葉は穂波の体の上に跨ってきた。

 「見つかっちゃったねぇ。しかも気狂いなんて呼ばれて...でも大丈夫だよ?僕の穂波への愛は変わらないから。これからはずっと一緒。」

 近づく二葉の顔。鼻と鼻が触れ合い、二葉の吐息が唇にあたる。そして二葉の瞳に映るのは、自身の姿。
二葉の瞳を通して自身と見つめ合う。

 「日向さんと穂波の仲も離せたし...残るは、今日穂波と一緒にいたあの男だけ」

 『こいつのせいだ。全部全部全部』

 瞳の中からこちらを見て、そう囁くその姿は徐々に顔を歪ませてきた。その声は二葉には聞こえていないらしく、穂波の脳内にばかり届いているようだった。

 「日向さんは寝室に閉じこもってるよ。さぁ、一緒にここから出よう」

 『日向も戻って来ない。手遅れだ。もう...どうにもならない』

 「ほら、これで自由になれたでしょ?」

 両手を縛っていた紐は外される。その間も二葉の瞳の中の自身は囁き続け、そして“ある言葉”を最後に、穂波は突然二葉を突き飛ばし、その上に馬乗りになった。
 漸く自由になったその手は二葉の首へと迷うことなく伸ばされる。

 「...ッ!!あ゛っ...が、ぅ...ッ、」

 握り潰すほどに強い力を手に込める。頭に残るのは最後に囁かれたあの言葉。

 『 殺してしまえ 』

 やけに自分の声にしては低い声が脳内に響いていた。

 「日向に大切にされるお前も...俺を蔑にしてお前を特別視する日向も...―――― 皆、殺してやる」

 「はっ、あ゛...ッ、ほな...み゛...っ、」

 「思い通りにならない奴らは殺してしまえばいいんだ。気に食わないしさ、俺が我慢する必要なんてない」

 徐々に青白くなるその顔は、人間味がなくなりより一層人形のようになっていく。
 苦しそうに歪められる表情を見て、初めて穂波は二葉に対して自ら欲情した。

 ぎりぎり、となる締めつける音。そうしていつのまにか二葉は動かなくなり、四肢を投げ出していた。

 「あぁ、きれいな首輪がついた」

 どこかで聞いたような言葉が、自然と穂波の口からもこぼれ出す。
 手を離せば鬱血したのか、指痕が浮かび上がり最後にはそれは首輪のようになった。

 「案外、呆気ないもんだな」

 動かない二葉から離れ、傍にあった衣服を身につける。尻の穴から垂れ流れるものだけが唯一不快なことだった。
 立ち上がり砂埃をほろいながら二葉が言っていた日向の居場所を思い出し、一歩一歩と踏み出し始める。

 「...――― ッ、」

 そしてベランダの扉の前に行き、ふと振り返った穂波は息を詰まらせた。

 白い肌。指痕の残る首。そこまでは先程とは変わらなかった。だが、その表情は苦しみに歪んでなどいなかった。二葉の顔は...――――― 微笑んでいた。

 そこからは振り返ることなく室内に入り扉を閉める。

 ― きっと、見間違えだ。

 「それより、次は日向の番だ」

 振り切るようにして二葉のことを考えるのは止め、意識の外に出す。
 今考えるべきことは、自分の思い通りにならない人間を殺すことだけだ。


 ――


 ―――――


 ――――――――


 寝室に向かうためにキッチンの前を通る。そこで目に入った、鈍く光る包丁を手に穂波は寝室へと静かに入った。

 ベッドに横になり、少しやつれた表情で日向は眠りについていた。
 足音を立てることなく、近づきベッドの上に乗ると日向の体を跨ぐようにして膝立ちになる。

 「...っ、」

 「日向...やっぱり俺はお前の言う通り気狂いなのかもしれないよ。」

 僅かに沈み、軋むベッドの変化に反応し、うっすらと瞼を開ける日向にそう告げる。

 「お前に執着してたんだ。でもさ、」

 「ほな、み...お前...――― 」

 「俺は一からやり直すんだ。今までありがとう。俺さ、日向のことが好きだった。だけどさっき気がついたんだ俺は日向のことがそれと同じくらいに...憎かった...――― 殺したいくらいにはね」

 「やめ...っ、」

 そして抵抗される間もなく穂波は包丁を振り上げ...

 「 さよならだ、日向 」

 勢いよく振り下ろした。





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