最後に笑うのは | ナノ
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 「...ッ」

 ふと穂波は寒さと体中の痛みで目を覚ました。
 視界に映る景色は見慣れた自分の部屋ではない。頭が寝起きでうまく働かなかった。しかし自分が全裸という状態に気がつき、一瞬にして記憶がよみがえる。

 ― あれから寝室に来て、それで...

 だが、意識を失う直前の記憶は思い出せなかった。霞がかったようなその記憶も、ただただ日向に犯されていた時のものだけ。
 日向の家に来たのは昼間だったが、外の景色を見る限り多分、今は夜が明けた朝方だった。

 「...いない、のか?」

 軋む体に無理をしてベッドから起き上がりあたりを見回すが、寝室には日向の姿がなく耳をすましても特に居間の方から人のいる気配は感じられなかった。

 ― 今度こそ、今のうちに帰ろう

 今は感傷に浸っている場合ではない、とあえて日向とのことは考えずに穂波はベッドから降りて立ち上がった。
 そして歩こうと下肢に力を入れれば、酷使された尻に痛みが走り穴から内腿にかけてどろり、としたものが垂れ、流れ出てきた。
それが日向のものと分かっているだけに、穂波は羞恥で頬を赤く染めた。

 寝室を出て居間に行けば、すぐさまティッシュで軽く下半身の処理をし、尻の穴から垂れるものも拭う。
 だが奥の方に入ってしまったものは掻きださなければいけないほどだったため、日向が帰ってきてしまっては困る、としょうがなく床に脱ぎ捨てられていた自分の服を身につける。

 次に鞄を探すがその中身のノートや参考書などは日向に犯される際、穂波が暴れたためかあちこちに散らばっていた。
 そこで急いで拾いにかかるが、中には日向の買っている雑誌なども散らばっており、拾うのに苦労した。

 「...ッ!!」

 そうしている中、ベランダの近くに来た時、何気なく外を見た穂波はそこからマンションに向かって歩いてきている日向の姿を発見した。
 姿を確認するやいなや穂波は大慌てで自分のものを全て拾い上げ、乱雑に鞄の中に詰め込むと玄関へと向かった。

 急ぎ過ぎてもたつき、中々靴が履けず思わず穂波を舌打ちをした。
 だが結局、そんな時間も惜しく感じ、靴はかかとを踏んだまま玄関の扉を開け外に飛び出す。

 鉢合わせだけは避けなければ、と穂波はエレベーターとは逆の方にある非常階段の方へと向かった。
 焦りで心臓はバクバクとし、下半身が痛んで何度かふらつく。

 それでも落ちないように気をつけながら、早足で階段を降りて行った。

 日向のマンションから出てしばらく。穂波は放心状態のまま歩き続けていた。そうして歩いていくうちに、

 「えっ!どうしたんすか?急に、」

 「いや...何となく、」

 気がつけば穂波は松高の家の前にやってきていた。
 そして呼び出すだけ呼び出しておいて黙り込んでしまう穂波を松高は快く家の中に招き入れる。
 家の中に入り、松高の部屋に入るまでの間、穂波は一言も口をきくことがなかった。

 部屋につき穂波はベッドに腰を掛けるが、やはり何も発することはなくただ茫然とした表情をするだけだった。

 「穂波先輩...大丈夫っすか、」

 「あー...大丈夫じゃ、ないかも」

 「大丈夫じゃないって...体調悪そうすけど、熱でもあるんじゃ...」

 「...ッ!!」

 イスに座っていた松高は立ち上がり、穂波の目の前まで行くとスッとおでこに手を当ててきた。
 その瞬間、穂波は分かりやすいほどに肩をビクつかせ、反射的にその手を払ってしまった。

 「え...っ、」

 「っ、悪い...、」

 その動作1つでどよめき立つ空気は重苦しく、気まずげに目線を上げれば、戸惑った様子の松高と目が合う。

 だが穂波自身も自分のその反応の仕方に驚いていた。それでも原因は分かっている。
 伸ばされたその手が日向に犯された時伸ばされたものと重なって見えたのだ。

 ― 松高は...松高はそんなことするような奴じゃないのに、

 「...やっぱ俺帰るわ。急にきちまって悪かったな。」

 日向と松高を重ねて見てしまったという事実に胸を痛める。
 すぐさま穂波は笑顔を取り繕い、立ち上がる。その時松高の顔をまともに見ることはできなかった。
 見据える先にあるのは入り口付近に置かれている自身の鞄。
 穂波は迷うことなくそちらへと歩く。

 「穂波先輩!!」

 「ま、松高...?」

 しかし、不意に松高に腕を掴まれ、穂波の歩みは止められた。

 「穂波先輩...日向先輩の家、ほとんど毎日行ってるんすよね?昨日も、行きました...?」

 「...っ、なんだよ急に。そうだけど、なんでそんなこと...」

 穂波は予想していなかった言動に心臓を激しく脈打たせた。下手に嘘をつけば後々厄介な目に合いそうだ、と本当のことを素直に答える。
...が、その瞬間松高は体を硬直させ、何か確信を得たかのように目を見開かせた。

 「...――じゃあ、首のキスマークは誰につけられたものすか、」

 「...ッ!!」

 それは、日向によってつけられたものでは?と遠まわしに探りを入れたような口調だった。
 穂波は全身が驚きで鳥肌だっているのがわかった。
そしてその時、タイミング悪く体の奥に出されていた日向のそれが存在を主張するかのように尻の穴から垂れ流れ、下着にじわりとはりついた。

 「か、帰る...っ、!!」

 状況に堪えられない、と穂波は息を荒くし、乱暴に手を振り払うと鞄を手にするのも忘れ、そのまま走って部屋を出ていった。

 後ろで何度も自分を呼び止める声が聞こえた。こんな逃げ方、先程の質問を肯定しているも同然のことだった。
 それでも穂波は動きを止めることなく、結局後ろを振り返らずに松高の家を後にした。



 自分の家に着いてしばらく。部屋のベッドで身体を投げ出す穂波は鳴り続ける携帯電話を見つめる。
 聴き慣れた音楽。画面に写し出される名前。
 二葉、日向、松高の3人からのメールや電話がうるさいくらいに穂波の気を引こうとしてくる。

 「...ほっといてくれよ、」

 ついにその音にも堪えられなくなり、穂波は目の前にある携帯の電源を切った。
 そうすることによって、静まる室内。穂波の口からはため息が吐き出された。

 帰ってきてすぐ、シャワーに入った。体に残るのは暴力を振るわれた痕とキスマークのみ。
 しかしあれからずっと、自分の体に触れた日向の手の愛撫がしみ込むように体に残っており、何度も体を震わせた。
 最悪な状況で叶えられた夢。といっても、その夢の中では自分が日向を抱く側だったが...。
 だが、それでも心とは相反して、体はあの時のことを思い出せば簡単に反応する。

 「...ッ」

 そんな自分に嫌悪しながらも、穂波は反応をしめす下半身に手を伸ばすのをやめることができなかった。
 外からは蝉の鳴き声と子供の笑い声が聞こえる。
空は快晴で雲ひとつない青空が窓から見えた。

 「ぅ...くっ、あ...」

 こんな真昼間という状況の中、穂波の手は下着の中に入り込み、性器を上下に扱きあげる。
 くちゅくちゅと小さな水音を立てながら陰茎を扱き、親指で亀頭を弄れば途端に性器は固くなり、勃起する。
 頭の中に浮かぶのは自分と日向が一つに繋がる姿。狭い下着の中から昂ったものを出してやれば温い風が先端にあたった。
 そしてベッドに横になったまま、穂波は本能のままに性器を扱きあげた。
 皮を使ってぬりゅぬりゅと刺激すれば、どっと先走りの汁が溢れ出る。

 日向の顔が、日向の体が、日向の髪が、日向の体温が、日向の声が...

 『 穂波 』

 「...っ、あ゛ぁ...ッ、」

 爪先がピクピクと動き、勢いよく手の平に精子が吐き出される。部屋の中には荒い息遣いがやけに大きく聞こえた。
 手の中には熱いものが垂れ流れるが、気持ちは急速に冷めていった。

 すぐにティッシュで汚れをふき取り、換気のため窓を開ける。

 「...最悪、」

 少ないながらも普段行う自慰。

 だがその時はいつにもまして自己嫌悪は酷かった。





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