最後に笑うのは | ナノ
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 そしてあの日を境に俺は二葉に性行為を強制される日々が始まった。

 「ほら、見て穂波。僕が舐めたら、穂波のここすぐに大きく、固くなる」

 日向がバイトで昼間不在の日。二葉は当たり前のように服を脱ぎ、俺の服も脱がせる。

 「気持いい?ふふっ、気持ちいいよね。こんなに先走りでぬるぬるさせて、僕の中に入れたらすぐにイっちゃうんだから」

 この拷問のような日々を再び繰り返し始めてもう何度、二葉とヤッたか。

 「穂波、大好き。大好きだよ、ずーっとこうやって1つになれたらいいのに」

 “今日は勘弁してくれ” “日向が帰ってきたらどうするんだ” そんなことを言って行為をやめさせようとしても、俺が強くものを言うことができないと知っている二葉はただ笑うばかり。

 「また...あの日に戻ったみたい。僕と穂波が初めて1つになった日...あぁ、幸せだなぁ」

 飽きることなく続けられる行為。
 俺の体を跨いで腰を振っては勝手によがり、思い出したくもない過去の話を二葉は嫌というほど話してきた。本当に、二葉は狂っていた。

 「僕が穂波と同じ高校に入学して...穂波は最後の高校生活を迎えた時。ねぇ、すごく記憶に残ってるよ。あの日の全て。僕は全部覚えてるよ、穂波が何を話して、どう僕に触って、何回イったか」

 そうして二葉はまたいつものように、過去の話をし始めた。そのせいで俺の中では思い出したくもない過去の出来事をリアルに...鮮明に脳内に浮かび始めた。


 ―


 ――


 ―――


 人の密度が高い電車内。俺の下半身を弄る手。

 「...ちょっ、と...っ、」

 最悪なことに俺はこの時、初めて男でも痴漢にあうのだ、ということを身をもって経験している最中。
 明らかに男の手だとわかるそのごつい手は、ついにはベルトを外し下着の中に入ってくる。
その手を止めさせようとしても、時すでに遅く、僅かに反応している急所を強く握られてしまえば、一気に体の力は抜けてしまう。
 そうなってしまってはしょうがない。と、早く降りる駅になることばかりを願っていた時、

 「おじさん、何してるの?」

 底冷えするほどの冷たい、二葉の声が男に向けられた。
 
 その時、ほぼ同時に電車が駅についたかと思えば、痴漢をしていた男は俺と二葉の手をとり、電車の外へと連れ出す。
 そして男は人気のない所まで俺たちを連れていくと、漸く足を止めこちらを見てきた。

 「あのね、さっきのことなんだけどさ―――」

 「穂波の体にその汚い手で触ったこと?」

 「...っ、あぁ、それなんだけどね、他の人には言わないでくれないかなぁ。ほら、お金あげ――――ひっ、!?」

 「なっ、二葉何出してんだよ!!」

 男が出したのは数枚の一万円札。そして二葉が手に持つのは...刃が出されぎらつく、カッターナイフ。

 「だって、僕の穂波に触ったんだ。...許されることじゃないでしょ?」

 二葉は男一直線に刃を向け、口角を上げるが、目は笑っていなかった。
 そして、息つく間もなく二葉は一歩男の方へと踏み込み、刃を振りかざした。

 「う、うわぁっ!!」

 「...ちっ、」

 しかし、男は運よくかわし床に転がるようにしてうつ伏せに倒れ込んだ。
 それでも幸運なことはそれまで。倒れている男の背を二葉は踏みつけ、男の動きを止めてしまう。

 「ひぃっ、た、助けてくれぇ、」

 「二葉やめろ!!さっさとそのカッターしまえ!」

 「えー。じゃあ条件を聞いてくれる?」

 「条件って、お前...」

 「僕のお願いを聞いて。何でも。そしたらこの男は見逃してあげてもいいよ?」

 俺の方など見もせずにしゃがみ込んで男に刃を当てる二葉にヒヤっとした。
 ここは人気がない。見ているのは俺だけ。

 二葉が本気だということに疑う余地などはなかった。

 「わかった!きくよ、聞くから!だからやめてくれ、俺はここまでしてほしくはない!!」

 そう俺が言った瞬間、二葉は目を見開かせて笑みを浮かべると、漸く男から足を退かした。
 
 そしてその願いが何かも知らず、その時の俺はホッと胸を撫でおろし、安心した。

 “僕を抱いてほしいんだ”二葉のその言葉を聞くまでは。





 「あれ?二葉は...」

 相変わらず暑い夏の真昼間。いつものように行った日向のマンション。
 しかしチャイムを鳴らす穂波を出迎えたのは日向ただ一人だった。

 「二葉はお盆だから墓参りに帰った。今日は帰って来ないってよ。」

 「ふーん。墓参りね、」

 そう聞き、母さんも“近々行くよ”と言ってたことを思い出す。

 「せっかく来たんだから上がってけよ」

 「え...ぁ、うん」

 久し振りに日向と2人きりという状態に心が歓喜する。最後に2人きりだった時の記憶はいいものとはいえないものだったが、不思議と恐怖はなかった。
 だから、ゆっくりと歩く日向の歩調に合わせて穂波も靴を脱ぎ居間へと歩いていった。

 「なん、で...っ、」

 だがそんな気分も一変。


 『ぁ、あぅ...ッ、ほな、み...ッ、穂波、すごい...きもち、ぃっ、』


 『おく...っ、奥まで...ひっ、ぁ、あッ...ん゛んっ、』


 居間に響くのは二葉の喘ぎ声。

 テレビの画面いっぱいにうつるのは服を身につけることもなく、重なり合い、乱れる2つの姿。

 「あ...あ゛ぁ、そん、な...」

 肩に背負っていた鞄が滑り落ち、中身が床に散らばる。次に足の力が抜けた穂波は崩れ落ちるようにして床にへたり込んだ。
 穂波は目を逸らすことなくテレビの画面を一心に見つめる。写し出されている情事はいつのものなのかは、分からなかった。
それほど同じ場所で、同じような会話を聞かされて、決まった体位で犯すことを毎回強要されたから。

 「最近、どうも2人の様子...ってか、穂波の様子がおかしかったからさ、部屋にビデオ置いてみたんだ」

 「そしたら、こんなものが撮れた」日向は声を出して笑う。穂波はそれに対して狂気を感じた。

 「まさかとは思ってたけど、本当にヤってたなんてね...よく人の家でできるよなぁ、こんなこと。もしかして2人は付き合ってたの?男同士で、」

 「ち、ちがっ...日向、あれは...―――― 」

 「いつからだよ!!これも初めてじゃないんだろ!?」

 「ッ、...な、夏休みの序盤だ...日向がバイトで昼間いないときは毎回...でも、日向、俺は二葉とは付き合ってない!!これだって二葉に強要されたもので―――― 」

 「...あぁ、そう。そうか。...いいわけはいい。よくわかったよ。お前のことが、」

 「付き合ってない人間と平気で何回も人の家でセックスしておいて、強要されたなんて言い訳するようなホモ野郎だって。」日向は侮蔑を込めた瞳で穂波を睨み、蔑んできた。

 そんな言葉を突きつけられ、穂波は口を閉ざしてしまう。
 “ホモ野郎”軽蔑するようなそんな言葉が何よりも胸に響き、喪失感に襲われる。
嫌われないよう全て隠していたのに。二葉を追い出してまた日向と笑い会える日が訪れることを願っていたのに。

 ― どう、しよう...どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしよう

 頭が真っ白になり、何も考えられない。
 焦点が合わず、今自分が何を見ているのかもわからない。

 「ひな...ひなた...ッ、お願...嫌わない、で」

 口を戦慄かせながらも穂波は悲痛な声を上げる。目の前に立つ日向に縋るような目を向けた。

 「可哀相な二葉。何回も何回も穂波に犯されて」

 「ひっ、な...何すん、」

 肩を強く蹴られ、押し倒される。

 「大丈夫。ビデオはちゃんと回してるよ?だから安心して。後でじっくり見せてあげるから」

 「い、いやだ...っ、やめ...―――ぅぐっ!!ぁ...」

 抵抗し、叫べば日向の拳が頬に振り下ろされた。口内は切れたのか、僅かに鉄の味が広がる。

 「最低なホモ野郎にはちゃんと二葉の気持もわからせなきゃなぁ」

 そう言った日向は悲しそうに顔を歪めさせた。だがそれも一瞬のこと。すぐに日向はまたいつものように冷めた眼差しを穂波に向け、衣服に手を掛けてきた。

 久し振りの日向の体温。嬉しいはずのそれも状況が状況なだけに恐怖を感じてしまった。
 同じような体格のため、殴るなり蹴るなりして全力で抵抗すれば日向から逃げることはできた。

 しかし、日向に暴力を振るう、という行為がどうしてもできず結局穂波は日向にされるがままになっていた。
 それでも口を開き、拒絶の声などを叫ぶがその都度穂波は脇腹や鳩尾など急所を殴られ、息を詰まらせた。
 そうして服を全て脱がされた時、ついに穂波は声も出さず抵抗もしないでただただ日向の行動に堪えることしかできなくなってしまっていた。





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