短編・リクエスト小説 | ナノ

▽ 従順な狂犬



 ― 俺の幼馴染は変人だ。

 同じ高校の生徒会役員である要(カナメ)は一臣(カズオミ)にとって一般でいう幼馴染という関係であった。
 高校に上がってから、明るく染まった金に近い髪の毛。耳にはいくつものピアスがついており、指や手首にはいつもアクセサリーを身に着けていた。
 元々は野暮ったい黒髪に地味な眼鏡をつけていたのに。

 『お前ダサすぎ。キモいからもう俺の目の前にくるな』

 中学卒業と同時に、一臣が要に言い放ったのはそんな棘のある言葉。すると高校入学時には今のような落ち着きのない素行不良そうな姿で目の前に現れた。

 “これなら、いい?”そう訊く要に一臣は再び棘をちらつかせる。

 『はっ、下半身ゆるそう。これで本当に下半身ユルユルだったら面白いのにな。まぁ、お前みたいなつまんねぇ人間には無理だろうけど』

 一臣が向けるのは見下した瞳。極端に自身の容姿を変えたのは面白かったが、だからと言って何ら興味は湧かなかった。自分の隣に立つのは、要のような人間は相応しくないのだ。

 元々は親同士の仲が良く、半ば強制的に幼馴染になったようなものだった。
 幼稚園から中学まで一緒にいることを強要され、漸く高校で離れられると思っていたら、要が一緒のところがいいからと一臣についてきたことでその願いが叶うことはなかった。

 周りから一臣の金魚のフンと言われようが、いじめられようが何ら気にすることはなく、また一臣の言うことは何でも喜んで従っていた。...――― その結果、

 『一臣、俺ね童貞も処女もなくしたよ。毎日ここの生徒とヤってる。そしたら皆、俺に下半身ユル過ぎって言ってくれるようになったんだ。なぁ、面白い?俺、一臣のこと、楽しませれてるかな?』

 やはり、一臣の言葉通り要は見た目通りの素行になった。

 『本当、お前気持ち悪い。一生やってろ』

 一臣の口からはその言葉だけを投げつけた。

 そうして月日は経ち、一臣はその美麗な容姿から、また学業においての成績から人気を得て会長の座に。

 『一臣が生徒会に入るなら、俺も入る』そう言った要は、人脈やセフレたちからの人気を得て会計というポストに就いた。

 『これで同じ仕事ができるね』

 不機嫌な一臣に臆することもなく、要は終始笑顔でいた。
 好きだと告白してくるでもなく、ただただ同じ空間にいようとする要。一臣の言うことにはすべて従い、冗談さえも本気で捉え行動する要は一見、単純そうにも見えるが、にこにこと笑うその気味の悪い瞳の裏では何を考えているのか分かったものではない。

 喜怒哀楽があるというよりは、いつも軽い笑みを浮かべ愛想よくする。まるで人形のような存在。

 それが幼馴染である要という男だった。

 高校も最後までこのつまらない人間と一緒なのかと思えば、落胆や苛立ちばかりが生まれていた。

 ― だが、そんな一臣の前に人生の転機ともいえる人間が現れた。

 「僕は咲(サキ)。これからよろしくお願いしますね、一臣会長」

 今まで見たことがないような愛らしい笑みを浮かべ、一臣に挨拶をしたのは天使のような人間だった。
 学年順位も一位の一臣に次ぐ二位で、一臣同様眉目秀麗だった。噂は常々聞いていたが会うのは初めてだった。

 今まで他人にはあまり興味を持ってこなかった一臣だが、これを機に一気に咲に惚れ込んでしまう。

 ― そしてその光景を、要は無表情で見つめていた。

 「咲、お前は本当に可愛いな。隣に居るだけで心地がいい」

 「もう、一臣会長...人前では恥ずかしいからやめてくださいよ」

 生徒会室でのこと。他の役員もいるというのに、一臣は周りの目を気にすることなく咲に抱き付く。
 口では注意をする咲だが、腰に絡みつくその手を拒むことはない。
 誰も止めることのない、2人の空間はひどく甘くどいものだった。

 2人は付き合っているのだ、と信じて疑うものは誰一人としていなかった。
 幸福に包まれた日々。一臣は咲に心底惚れ込んだ。それはもう、周りが見えないほどに。

 だから気が付かなかった。

 「ねぇ、一臣会長...僕、すごく退屈なの。何か面白いことして?」

 どこかで聞いたことのある呟きに。

 「その髪型も、僕好きじゃないな。もっとここの髪を伸ばして...ここは短く!ね、いいでしょ?」

 天使が紡ぎだす、悪魔の囁きに。

 「なぁ、どうだ咲。全部、お前の思い通りだろ。気に入ったか、楽しいか?」

 ある人間と同じように行動している自分に。
 一部の生徒は気が付いていたが、相手は生徒会役員。何も言うことができなかった。

 「次はどうすればいい?何をすればいい?何が欲しい?全部...全部俺が叶えてやるよ。何でもだ、お前が望むことならなんでも。」

 ――――――――――


 ――――――


 ―――


 「じゃあ、次は要君に犯されて?」

 そう言った目の前の天使は、朗らかに笑うだけだった。

 「ひっ、ぃ...あ、あ゛ッ、かなめ...要っ、」

 「どうしたの、一臣。苦しい?もう、やめる?」

 裸で絡まりあうのは、二つの影。幼馴染であった二人は朝から生徒会室で情事に勤しんでいた。
 仰向けで女のように足を広げて、要のものを自分の中で銜え込んで離さないのは一臣の方だった。
 尻の穴の皴が伸び切るほどに、ぎちぎちなそこは二人の愛液で濡れて滴っている。

 「ぃ...や、やめないで、くれ...もっと、もっと犯して...くれよ、」

 自身の足を要の腰に絡ませ、抜けそうになっていたものを深くまで挿入する。それに刺激され、再開されたのは激しいくらいの律動。
 途端、前立腺を掠め、一臣は恥ずかしげもなく喘いだ。

 「一臣会長...すごく、すごく面白いよ。楽しい。一臣会長の色んな姿が見れて、僕嬉しいな」

 そんな二人をソファの上から眺めるのは、一臣が溺愛していた咲であった。
 咲の呟く声を聞いた一臣は嬉しそうに笑い、そして要を求めた。

 響く水音と肉を打つ音。高すぎない一臣の喘ぎ声は色香を放ち、呆けたように快感に染まるその顔は甘く、周囲が知っているような会長の姿はそこにはなかった。

 「あっ、あっん...はげし、ん゛んッ、あっ...かなめ、かなめ...イキそ...ッ、」

 「俺もイキそう...ねぇ、一臣...中と外、どっちに出せば、いい...かな、」

 狭い肉壁を抉り、連続的に前立腺を押しつぶされ理性をなくした一臣は堪らず自身のものを上下に扱き始める。

 「な...中...中に、出せ...ッ、たくさん、溢れるくらいに、」

 先走りでぬるつく自身の陰茎を扱きながら、片方の手で亀頭や先端の穴を爪で抉り絶頂まで追い詰める。
 そんな一臣の発言、行動...すべての痴態を上から見下ろしながら要は歪んだ笑みを浮かべた。

 「一臣の、思うままに...っ、」

 「ひっ、あッ、あ゛あ...ッ、でて、る...奥に、」

 体の奥で感じる、打ち付けられる熱。もはや一臣に羞恥やプライドなどはなかった。

 「最高だよ、一臣会長。また明日も見せてね」

 咲のこの言葉を聞くためなら、自分の体などどう使われようが関係なかった。要とのこの行為も、もう数え切れないほどやらされている。
 今ではあれ程うざったいと思っていた要を求め、自身から腰を振り快感に浸る。抵抗感など一切ない。
 そうして要にキスをされながら、生徒会室を出ていく咲の背を見送る。

 「一臣、一臣一臣...あぁ、幸せだよ。愛してる...一臣も、俺のこと愛してくれてるよね?」

 舌を吸われ、口腔を犯される。息を吸う間に要はそう一臣に囁き尋ねた。

 「愛してる、俺も愛してる。だから、また明日も俺とセックスするんだ。お前に、拒否権はない」

 前なら想像もつかなかった言葉が自身の口から発せられていく。
 そう言えば、要は明日もまた自身を犯してくれる。そうすれば、咲は楽しんでくれる。喜んでくれるのだ。一臣は心の底から要に犯されることを望んでいた。


 ―――


 ――――――


 ―――――――――――


 「一臣、俺だけの一臣。漸く、両想いだね」

 ソファの上で眠る一臣の頭を、要は優しく撫でる。
 形はどうであれ、一臣は自身に愛を囁いてくれるようになった。体を、快感を求めてくれるようになった。

 「一臣は素直じゃないからな。今みたいに咲に命令されないと、俺のことが求められないんだもんね」

 愛しい愛しい、可愛い恋人。

 「でも、咲が俺のセフレでよかった。何でも言うこと聞いてくれる」

 ― もしかしたら、こうなることを予想して一臣は俺にたくさんセフレを作らせたのかな...

 「あぁ、もう本当に可愛いなぁ」

 誰が聞いてるわけでもないのに話し続ける要の口元には笑みが浮かび続ける。

 「一臣も、楽しいでしょ?」

 そうして小さなリップ音を最後に、要は生徒会室を後にした。


 end.



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