短編・リクエスト小説 | ナノ

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 「 ....。 」

 特に会話が弾むこともなく、藤峰は黙々とケーキを食べる。
 それに対して特に苦痛を感じることもなく、ユキトもケーキを一口掬ってはまた口に運んだ。

 「...ん?どうかした?」

 不意に藤峰の手が止まり、ある一点を見つめていることに気がつき、その視線の先を辿る。

 「あぁ、これか...」

 それは厚さ2〜3pにもおよぶ大量の写真。

 ― 隠すの忘れてたなぁ...

 そんな束の1番上で見えているものは...――― ユキト1人の写真。しかも、隠し撮りされたもの。

 「まぁ、気にしないで。大したものじゃないから、」

 「 ...。 」

 「それにしても、バイト先のケーキ、本当においしいなぁ。タダでもらえるってラッキー」

 「 .....ストーカー、」

 「、えっ?」

 一瞬聞こえたその言葉に思わずユキトはケーキを掬う手を止める。
 まさか、と思い藤峰を見るが、当の本人は目線を下に向けたまま気まずげな雰囲気を漂わせていた。

 「そ...それ、ストーカー...でしょ、」

 「...っ、」

 「わ、わか...るんだ...高校の時、僕も...されて、たから...」

 今度はユキトが黙りこくる番だった。予想外の発言に驚き、目をぱちぱちと瞬きさせる。
 ユキト自身、ストーカーに遭うのは今回が初めてではなかった。ただ、他と違うのは女だけでなく男にもストーカーされるという時点。そんなことが自分にも起きていることもあってか、ユキトは藤峰の今の発言を聞いてある予想が浮かんだ。

 ― 藤君が言ってることが本当だとしたら...きっとその相手は男に違いない。

 そんな身も蓋もない考えが頭の中をせしめる。

 しかし、それも藤峰の容姿、態度を見れば仕方のないことだった。
 藤峰はお世辞にも女子ウケのする人間ではなかった。

 黒く、長い髪の毛。目元は前髪で隠れ、見えるのは鼻と口だけ。声は高めで肌は白く華奢なため、後ろから見れば女のようにも見える。身長だけは170後半のユキトと同じくらいか少し低いくらいだが、全く男らしさはなかった。
 だが、ユキトは藤峰の、ある美点を知っていた。

 「そうだったんだ。...藤君、きれいな顔してるもんね、」

 「...ッ!!」

 ユキトがそう言い、藤峰の重たい前髪をかきあげた瞬間、藤峰は一気に顔を真っ赤にさせた。

 美人、などと言われてきたユキトだが、何度見ても藤峰の顔立ちに対して感嘆の溜息を吐き出してしまいそうになった。
 藤峰は女のような容姿だが、コミュ障でさえなければ普通にモテそうな顔をしていた。

 「ぼ...ぼ、僕はそんな...っ、」

 「謙遜しないの。藤君は僕が今まで会ってきた人の中で一番きれいだよ」

 「 ...っ、」

 「そういえばさ、僕...藤君と会うようになってからはこういうことされてもあまり落ち込まなくなったんだ。...なんでだろうね、」

 「...え、僕...と?」

 「うん。ここ最近は無言電話とかメールとか、手紙とか...あと、怪しいプレゼントとか精液臭いものとか...今までにないくらい酷いものが多いんだけど、全然落ち込んだりしないんだ」

 そして含んだ笑いを藤峰に向ければ、藤峰はまたいつものように表情を硬直させたまま、顔を横に向けて視線からユキトを外した。

 


 「今度は一緒に鍋でもしようよ」

 そう言い、笑顔で僕を見送るユキト君を僕は重たい前髪越しに見つめる。

 閉まる扉。僕は後ろ髪を引かれる思いに駆られたが大人しく隣の自分の部屋へと戻っていった。
 日中も常にカーテンが閉め切られているせいで暗い部屋。そのせいか、パソコンの電源をつければやけに画面の光が明るく見えた。
 そしてヘッドフォンをつけて椅子に腰をかければ準備OK。

 僕は食い入るように画面を見つめた。

 「ユキト、君...だ、大丈夫だよ...僕が君を、守ってあげてるんだから...」

 大画面いっぱいに広がるのは、先程藤峰が使っていた皿やコップなどの後片付けをするユキトの姿。
 カチャカチャとなる皿の音や流水音はヘッドフォンから頭の中へと入ってくる。

 「僕の精子がついた...プレゼント、喜んで...くれなかったな...―― 量が、足りなかったかな?」

 カチカチとマウスをクリックし、画面を2つに分ける。もう一方は今のユキトの様子が映し出されているもの。そしてもう一方は...

 「今日は、これでたくさん僕の精子をだしてあげるね、」

 『...ん゛ん...ッ、ぐっ...ぁっ、はっ、ああぁッ、』

 「後ろの穴つかって...1人えっちなんて...ユキト君は本当、淫乱だなぁ、」

 前に撮っていたユキトの自慰時のものを見てすぐに藤峰の股間は熱くなる。
 固くなりつつある性器を手早くズボンから出すと画面を見て、ヘッドフォンからの喘ぎ声を聞きながらそれを愛撫する。

 「あぁ、早く僕ので...突いてあげたい、」

 壁を覆い尽くすほどに貼ってあるのは、ユキトの写真や、ユキトが自慰している時のものを拡大してポスター大に伸ばしたものばかり。床にはたくさんの書きかけの手紙が散らばっていた。

 ― こんな僕に優しくしてくれたユキト君、きれいなユキト君、僕に笑いかけてくれるユキト君...

 「僕の愛を...全部受け取ってよ、」

 手に絡みつく白い液体。

 藤峰の顔にはいつもは見られない、恍惚とした表情が浮かんでいた。

 ――


 ――――


 ――――――


 ―――――――――

 「 あぁ、危ない危ない 」

 小さく呟き、手に取るのは先程藤峰が見つめていた大量の写真の束。

 ユキトはそれを一枚一枚見ては、机に置いていく。そして数枚置いたところで、その手は止まった。

 「これは、藤君のカメラに映らないようにしなきゃ...」

 その言葉は小さな小さな声で紡がれる。それは藤峰が自分の部屋につけた隠しカメラでは捉えることのできない声音。

 ニヒルに笑う、視線の先にあるのは...――― 藤峰を盗撮した写真。

 大量にあった写真の被写体は数枚を除いて、あとは全て藤峰だった。

 ― 僕の乱れる姿を見て、君はどう興奮するのかな?

 そして妄想に走るユキトの性器は、ズボンを押し上げるほど、熱く昂っていた。


end.


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