※死ネタ、ほんのり円風、円夏表現





今日俺は死んだんだそうだ。
家族がそう言っているのを聞いた。

ふよふよと漂う俺は、まっさきに幽霊って本当にいたんだなと思った。


真っ白なベッドに横たわるのは紛れもない俺で、身体の至る所に包帯を巻いていた。
自殺した記憶なんてないから多分事故にあったのだろう。

しかし自分のことなのにやけに冷静でいられる自分に驚く。
もしかしたら他人からすれば、よっぽど焦っているのかも知れないけれど。
だって俺は確かにここにいるんだ。
例え目の前に自分の亡骸があろうとも、例え自分のことを誰も認識してくれなくても。

誰も気づいてくれないことがなんだか悲しくて、少しだけ泣いた。



葬式まではあっという間だった。

みんなが泣いている。
母さんが、父さんが泣いている。チームメイトが泣いている。
円堂が、泣いている。
そういえば円堂って意外と涙もろいんだっけ、と頭の片隅で考える。

もしかしたら一人くらい自分に気づいてくれるやつがいるかもしれない。
ふよふよとみんなの周りを漂ってみたけれど、やっぱり誰も気づいちゃくれなかった。

そうして燃やされていく俺だったもの。
興味本位で見るんじゃなかった。気持ち悪い。

葬式が終わって、みんなが俺の話をする。
あいつはいいやつだったとか、まだ抜かせてないのにとか、まだこれからだったのになとか。

違うよ、俺はここにいるんだ!

そう叫んだってみんなには届かなかった。
今更になって死んだことが怖くなってまた少し泣いた。



何日かして、骨を墓に埋めた。
それからみんながよくお墓参りに来るようになった。
俺は留まったまんまだった。

別に未練なんかあるわけないのに、それでもあの世にはまだ逝けないようだ。
相変わらず俺はふよふよと漂っている。

学校には俺の机に花が添えてあった。
部屋は片付けられないまま残された。
ロッカーは片されたけど、ユニフォームは部室に飾られた。

俺に未練があるというよりは、きっとみんなが未練がましいんだろう。
じゃなきゃ今頃成仏しているはずなのに。

なぜだかまた少し泣いた。



円堂達は高校生になった。

真新しい制服を着てお墓参りに来てくれた。
一番にお前に見せたかったんだなんて、そんな嬉しいこと言ってくれるなよ。

お墓参りの度に、みんな今日は何があったこんなことがあったと教えてくれる。
気が付けばそれが楽しみになっていた。

俺はまだ成仏できない。

お墓参りに来る人数や回数は段々と減ってきている。
それはきっと良いことのはずなのに、けれど寂しくて少し泣いた。



もう円堂達は24になった。
俺は14のままだ。

この頃になると、年に一二度来る程度になった。
もう慣れた。

円堂だけは相変わらず頻繁に来ては、その日あったことを話してくれる。
だから少しだけ、円堂は前に進めてないのかと心配になった。
忘れないでいてくれることは嬉しいけれど、いつまでも過去に縛られては欲しくない。

けどそんな心配は杞憂だったらしい。


「俺さ、結婚したんだ。相手は夏未だ。最初はあんなにいがみ合ってたのにな、不思議なもんだよな」

本当にな。
ていうか付き合ってたんなら俺に言ってくれればいいのに。

「…それでさ、俺もしかしたら風丸のこと好きだったかもしんない」俺も実はお前のこと好きだった。
言ったことないけど。

「死んだら次があるのかは知らないけど、もし生まれ変わったら、またサッカーしような」

うん。
忘れるなよ、その言葉。

円堂の頭にゆっくりと手を乗せる。
気づかれないだろうけど、優しく撫でる。

「ありがとう、円堂」

意識がすうっと消えてゆく。
ああ、やっと成仏できるのか。長かったな。

じゃあな円堂。
また来世で、




ぴゅうと風が吹く。
けれども冷たさは感じなくて、やけに温かい。

「ありがとう、円堂」

その声は間違いなく、10年前に聞いた風丸の声だった。
そしてふわりと風が止む。
後に残ったのは、髪に残る風の感触だけだった。

「ずっとお前はいたんだな、風丸。また会おうぜ」

さあ、早く帰らないと夏未にどやされる。
ゆっくりと立ち上がり、墓に背を向けて歩く。
振り返って墓を見る。
まだそこには風丸がいるような気がした。




君に捧げる鎮魂歌








思いつくままに30分クオリティなので多分誤字脱字が酷いと思います

久し振りに円風書いたらこうなったどういうことなの
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