よく彼女はおれに向かって「可哀相」という言葉を口にする。
その言葉にどれだけの意味を込めているのかは知らないが、知りたいとも思わない。それを知ってしまったら最後、おれはきっと自分自身を今以上に嫌いになるだろう(これ以上嫌いになりようもなさそうだが)。
そんなおれの心情を知ってか知らずか、いや、分かっててだろうが、またおれに向かって「可哀相」と言ってくる。
いちいち言われた回数なぞ数えていないが、おそらく50回は優に超えていることだろう。
「可哀相な風丸君」
あ、また言った。
「風丸君はマモルくんのこと好きなのに男同士だからって思いを伝えられないまま親友のフリしていくのね」
「お前に言われたくない」
「そうね、異性なのに思いを伝えられない私は貴方より臆病者だわ」
「同情してほしいんだ『可哀相』って」
ひくりと反応を示す。図星。
「俺のこと可哀相って優越感に浸って、自分は可哀相って同情されたくて。久遠ってば結構強かなんだな」
「そう…そうね、そうかもね。ねえ風丸君」
「なんだ」
「傷の嘗め合い、してみない?」
「可哀相な者同士?」
「可哀相な者同士」
ふふと笑いあう。
「いいぜ」
「私風丸君のそういうところ好きだよ」
「好きです久遠冬花さん、俺と付き合ってください」
「こちらこそよろしくお願いします」
そして全てを塗り隠してゆく
円風も円冬もすきですよ