フィディオ・アルデナ。
我らがオルフェウスの代理キャプテンであり、颯爽とゴールへ向かう姿は、白い流星の名に恥じない。
チームのことを誰よりも考え、的確な指示を出す様は、男でも見惚れてしまうほどだ。
現に、チームオルフェウスの中でも一番の人気を誇っている。練習中に女子からの黄色い声援は勿論のこと、普段から人当たりがいいこともあってか、町中至るところで声をかけられる。面倒がらず、それらすべてに笑顔で答えている姿は流石だ。
それはチーム内でも変わらず、サッカーの実力は勿論、その天性の人徳からかチームの皆からも信頼されていて、その内の何人かは確実に彼に好意を寄せている。(何を隠そう自分もその1人だ)が、本人は余り関心がないようだ。そういえば、最近ジャポネーゼの1人に、とても関心を寄せているとか。と、それはどうでもいいか。いや、よくないか。
まあ、とにかくフィディオというやつは凄いやつなのだ。
そのおかげか、チームの噂は専らいいものばかり。
しかし、その彼は今、普段からは想像もつかないような格好でだらけていた。
「フィディオ、いい加減起きたらどうだ」
「うう…あと5分……」
「その5分は、たった今終わった。幾らオフだからって、きっちり起きないと飯食わせないぞ」
「うっ、マルコのイジワルゥ…」
渋々といった風に、布団からもぞもぞと起き上がる。
シャツは捲れ上がり、髪はボサボサ。ぼけっとしたその顔は、本当にあのフィディオなのかと疑いたくなる。
このFFIで、宿舎に泊まるようになってから知ったことだが、どうもフィディオは朝に弱いらしい。
全く、毎朝お前をを叩き起こさなきゃならないオレの身にもなってくれ。以前、彼にそう言ったら、それでも起こしてくれるじゃないか。なんて可愛らしい笑顔付きで返ってきたものだから、それ以来なにもいえずにいた。未だに醒めていない様だが、今日は本当に起きてくれないと困る。
「今日、ジャパンエリアのエンドウに会いに行くって言ってたろ。約束までもう1時間もないぜ」
そう告げれば、綺麗なコバルトブルーの瞳を大袈裟なまでにパチパチさせる。
「忘れてたっ!」
勢いよく飛び上がるフィディオを横目に、今日は何をしようかななんて悠長に考えると、いきなり目の前にフィディオが現れた。…心臓に悪すぎる。
「ほらっ、マルコも支度して」
そう言って渡されたのは、最近では着なれてしまったオルフェウスのジャージ。
だが、問題はそこじゃない。
「オレもって?」
「いいから早く!」
ジャージを渡してきたからには、サッカーをするつもりだろうが…。訳もわからずに私服からユニフォームに着替える。
そしてそのまま手を握られ、ズルズルと引き摺られるように、宿舎を後にした。余りにも自然にするものだから、一瞬脳がおいつかなかったものの、直ぐに自分の右手から熱くなっていくのがわかった。手がじっとりと汗ばんでいく。
「なぁフィディオ」
「ん?」
「なんでオレまで行かなきゃいけないんだ?」
繋がれた右手にどぎまぎしながらも、疑問に思ったことをぶつける。
「マモルにさ、紹介する約束したんだよ。大切な友人だって」
その言葉を聞いて、嬉しくなった反面、やはり友人止まりなのかとショックを受ける。
「でも、なんでオレなんだよ。オレじゃなくても、ジャンルカとかブラージとか居たろ?」
そう言うと、さっきまではしゃいでいたのが嘘のように静かになる。オレ…何か悪いことした?
何事かとフィディオの顔を見てみれば、ぱっちりとした瞳を見開きこちらに向けている。
「なんで?」
「いや、だからオレ以外にも友達いるじゃないか」
「だってオレ、一番仲良いのはマルコだと思ってるし。あ、マルコは違ったのか?」
「いいいや、オレだってフィディオが一番だ!」
そう言えばそっか、と嬉しそうに笑う。
その笑顔にまた俺は何も言えなくなる。
…惚れた弱味ってこういうことなんだろうな。
どうやら、オレにもまだ希望があるらしく、たとえ親友という立場でも、あいつらにくらべたら一歩リードしてるかもしれない。
(悪いな、皆)
そう思いつつも、どんな形であれフィディオに特別に見られていた優越感に、1人浸っていた。