円→(←)風



好きなんです、

よく通る声が校舎裏に響く。
ああ誰か告白でもされてるんだななんて気にもとめなかった。さっさとゴミを捨てて教室に帰ろうとした。
だけれど、その相手を目にして大きく動揺してしまった。
…間違い。吃驚してしまった。

「円堂…」

間違いない円堂だ。

正直驚いた。だってあのサッカー馬鹿が、円堂に惚れているだろうマネージャー、ではない子に告白されているのだから。
確かあの子はうちのクラスの子だったはず。しかも結構人気あるほう。
身近な奴のそういう場面ほど気まずいものはないのだと、このとき初めて知った。
しかもそれが幼なじみの円堂ときた。今尋常じゃない汗が流れてる気がするけれど、きっと気のせいなんかじゃない。

そうこうしている内に話は終わったらしく、二人は別々の方向へ歩き出す。

一体円堂はどうするのだろう。
結局返事は聞けずじまいだったから分からないけれども、どうしても円堂が女の子と付き合っている姿を想像することは出来なかった。







いつも通り練習が終わる。
今日はずっとあの告白の事が気になり集中出来なかった。そのせいで鬼道には叱咤されたし、後輩には心配されてしまった。
それでも頭にずっとあの景色が永遠リピート。
円堂はあの後どうしたのだろうか。まさか本気で付き合うつもりなのか。
ぐるぐるとまるで渦を巻いたように頭の中がゴチャゴチャしてきた。
これは案外重症かもしれない。

とにかく一度整理しようと考えていると、件の彼が声を掛けてきた。

「一緒に帰ろうぜ」

思わず、どうしたんだよ告白の返事したのかよつかあの子誰なのか知ってるのか?…なんて言いそうになった。
流石に聞いちゃ不味いだろう。もし聞いたら盗み聞きしてたことバレるし。
なんとか言いたいのをグッと堪えて、当たり障りのない返事をする。

「わかった。ならさっさと特訓切り上げてくれよ」
「わーってるって!」
「なら良いけどな」

他愛もない会話。
こういうこと、あの子もしたいのかななんて考える。そうして何故かあの時のシーンを思い出してもやもやしてしまう。
何故何度も思い出すのだろう?確かにあの子は可愛かったけれど、別段俺のタイプという訳でも無かった筈。

気がつけばもう着替え終えた円堂が目の前に立っていた。しかも他の奴らはもう居ない。
二人だけの空間に、いまだに姿を隠そうとしない夕陽が差し込む。

「風丸っ、何ボケーッとしてんだよ!」
「え、…?」
「もう7時30分だぞ」

それってかれこれ20分以上考え事してたってことか?よく見れば、全く着替えられていない状態だった。周りにいた奴らも帰ったらしく、俺達2人っきりだ。

「悪い、直ぐに着替える」
「あのさ」
「ん?」
「風丸、あの時居たろ」

サッと顔が青くなる。
もしかしなくてもバレてた?

「えーと、何時のこ」
「ゴミ捨てに来てたんだろ」
「…はい」

ああああ何素直に頷いてんだ俺ぇ!心なしか円堂の顔が恐い。気がする。

「なあ風丸」
「なに」
「好きだ」
「あーうんあの子がね」
「ちげーよ」
「はい?」

つか円堂はいきなり何を言い出すんだ。好き?あの子じゃなきゃいったい…。

「サッカーがか?」
「なんかすげー飛んだな。好きだけど、いや違くて、俺が好きなのは風丸」
「…へ?」

例え間抜けな声だとしても、反応できたことを誉めて欲しい。いきなり何を言い出すんだこいつは。あれか、告白された事によって浮かれて頭可笑しくなったのか。

「俺は男で、お前も男だ」
「知ってる。風丸はホモとかじゃ無いことも知ってるし、俺だって男が好きな訳じゃない」
「なら何で」
「風丸だから」

あまりのことにただ呆然とする。
男が好きじゃなくて、でも俺は男だ。それとも男に見られてなかったのか?

「そうじゃなくて、風丸一郎太っていう人間が好きなんだ。なあ、風丸は好きな奴、いる?」
「そんなの、」

いない。
って言えればいいのに、その先の言葉を紡ぐことは出来なかった。
好きな奴、俺には好きな奴がいるのだろうか。そういうことを考えた事が無かった。

「わかんない」
「じゃあさ、俺のことは?」
「わかんねーよ、友達じゃないのか?それじゃ駄目なのか?」
「俺はそれじゃ嫌なんだよ」

好きだなんて、そんなのわからない。だって俺はずっと円堂のことを友達だって思ってた。

…本当に?

俺は円堂をどう思っているんだろうか。

「俺は、お前が好きだ」

俺、は…?




答は最初から判ってた
(だけど俺はそれを拒んだ)


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テーマ「人外ファンタジー」
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