ネタバレあり
ゲームクリア済み

京(→←)拓
友情以上恋人未満






「それじゃあな、神童。お大事に」
「ああ、じゃあな霧野」

ピシャリと扉の閉まる音を聞き、思わずふぅ…とため息をつく。
毎日誰かが見舞いに来てくれるとはいえ、やはり入院生活というものは暇だ。

新雲との試合中、相手選手との衝突で折れてしまった足。仕方がないこととは言え、やはり最終決戦を前にしての負傷してしまうなんて、俺も相当運がない。
医者の話では、あの時頭を変に打たなかっただけ儲けものだとか。なんでも首まで痛めたりなんかしたら、最悪、身体を動かすことすら出来なくなったかもしれなかったらしい。
そう考えれば動けなくなるよりはいいかとも思えるが、やはりチームのみんなと革命をやり遂げたかった。
けれど、俺が居なくともきっとみんななら上手くやれる。天馬だって、きっとしっかりとキャプテンをやってくれる筈だ。

そう言えばと、ふと思い出す。
霧野や天馬は毎日のように来てくれる、先輩達もよくお菓子なんかを持ってきてくれるし、浜野たちはそんなお菓子を目当てに来たりする(主に浜野が)、後輩達は学校での話を聞かせてくれる。
しかし、ただ一人だけ、一度も俺の見舞いに来ていないやつがいた。

剣城だ。

確かに俺と剣城は、あまり仲が良い訳じゃない。けど悪くもないと俺は思っている。
剣城のお兄さんは足を悪くしてこの病院に入院していると、以前天馬から聞いたことがあった。お兄さんの見舞いついででもいいから来てくれたって良いものだが。しかし暫しの間とは言えサッカーが出来なくなった俺に、お兄さんのことを重ねられても困る。
その時、病室の扉が開いた。また誰か見舞いかと、そちらに目を向ける。と、思わぬ人物がそこにいた。

「剣城…」
「見舞いに来たってのに随分な態度ですね、キャプテン。なんですかその呆けた顔は」

この、素で人を小馬鹿にする物言い。間違いなく剣城だ。

「てっきりお前は来ないものだと思ってたんだけどな。でも来てくれて嬉しいよ」

それを聞いて、ムッとした表情をつくる剣城だが、少し頬を赤くしている所を見ると照れているのだろう。

「別に。兄の見舞いのついでですよ」
「ふふ、そうか。でも何で顔が赤いんだ?」
「うううウルサいですよ!ほらっ、前に食べたいって言ってた駄菓子」
「わっ。ありがとうな、剣城」
「いいえ。変に高いもんは買えないですし」

まさか本当に来てくれるとは思わなくて、思わず頬が緩むのは仕方ないと思う。しかも、以前自分が言っていたことを覚えていてくれた事が、凄く嬉しい。
さっそく断りを入れてから、袋の中を見てみる。

「…なんか、アメリカのケーキみたいだな。凄いカラフルで」
「駄菓子なんてそんなもんですよ。アメリカのケーキってなんですか。ってかいらないんなら返して下さい」
「いる!有り難く貰っとくよ」

駄菓子がわんさか入った袋を、いつものように棚にしまう。食べるのが楽しみだな。でもきっとこのお菓子の半分は浜野に食べられるのだろうけど。

「どうですか、足の具合は」
「まだやっぱり痛いかな。でもお医者さまの話では、これなら早いうちに治るだろうって」
「そうか…」
「部の方はどうなんだ?上手くやれてるか?」
「松風がキャプテンとして頑張ってましたよ。至らない所は、先輩方がフォローしてくれますし」
「お前はどうなんだよ」
「心配しなくとも大丈夫ですよ」
「まあ、それもそうか」

そこで会話が途切れる。
もともと剣城も俺も、あまり会話が得意な方ではない。聞きたいことは沢山あるはずなのに、上手く話せそうにない。
これが天馬なら、きっといつまでも会話ができるんだけれど。

「やっぱり、悔しい…ですよね。後少しだってのに」

意外な言葉に、剣城に顔を向ける。悔しさや憤り、不満なんかが入り混じったような表情をさせていた。

「まあ悔しさ。悔しいに決まってる。でもさ、お前たちなら革命をやり遂げられる。そうだろ、剣城」
「それでも、俺は」
「剣城らしくないぞ、そんな顔。いつものお前らしく、生意気な態度でなくちゃ」
「どういう意味ですかそれ」

お兄さんの事もあるわけだし、きっと剣城は怪我なんかに人一倍敏感だろう。
以前万能坂との試合でも、身を呈して天馬を庇っていた。もう、お兄さんのように苦しむ人を増やしたくなかったのだろう。

「…早く治さないとな」
「なら大人しく寝てることですね。兄さんももう直ぐ手術が受けられるみたいですし」
「………は?」
「え、何ですかそんな口開けて」
「お兄さんの足、治るのか?金が無くて手術は受けられないんじゃなかったか?」
「どっかの親切な人が、手術費用を負担してくれるそうで」

その言葉を聞き嬉しい反面、別に気を使う必要などなかったのかと、何となく恥ずかしくなり布団に顔をうずめた。

「だったら、…なんか…」
「なんですか?」
「別に…気にすることなんか、一つもなかったんだな」
「もしかして兄さんのこともあるし気を使おうとか、そういう事でも考えてたんですか?ふっ…そんなの不要ですよ」
「笑うなよ!気を使うのなんか当たり前だろ!」
「気を使おうよりも、早く治すことに専念したらどうです?」
「もーウルサい!俺はもう寝るからっ!お前もさっさと帰れよ!」
「はいはい、わかりましたよキャプテン」

俺は勢いよく頭まで布団を被り、剣城に背を向けるように横を向く。剣城の座っていた椅子がガタリと音を立てた。
そのまま出て行くのかと思いきや、ギシリとベッドが少し軋む。
顔に熱が集中していくのを感じながら、目を開けるまいと目蓋にぐっと力を込める。
きっと剣城には、俺の顔が真っ赤なのが丸わかりだろう。クスリと笑いながら、頭に手のひらがポンと置かれた。
「俺、貴方が怪我をしたとき、凄く焦ったんですよ。それこそあいつの足が折られそうになった時や、監督が去った時以上に」

そのままゆっくりと髪を梳くように撫でられる。
軽く頬に触れる柔らかな温かさ。
それが何かを理解して、更に顔が熱くなった。

「お休み、神童センパイ」

剣城が出て行ってからも、動く事ができなかった。
そっと、指でキスをされたであろう場所を撫でる。

「頬にキスとか、剣城のキャラじゃないだろ」

しばらくこの感触はとれそうにない。




耳元で囁かれた甘い毒








実は扉の向こうでは剣城も悶々していたり

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