※二人は既に恋人同士
自分の指をガリリと噛む。もう当たり前になってしまったその行為を、今更どうこう思わないが、噛む度に痛そうな顔を神童は向けてきた。
「痛くないんですか?それ」
雑誌を読んでいたはずの神童が、いつの間にか顔を上げてこちらを見ていた。
「痛いんじゃねぇの」
「自分でしてることじゃないですか。もしかして噛みすぎで感覚鈍ってます?」
「そーかもな」
最初は痛みを感じたこれも、ここ最近ではあまり痛みを感じない。
おそらく神童の言った通り、感覚が鈍ってきているのだろう。その証拠に、噛み続けた人差し指は皮が厚くなってしまったのか、少し変色していた。
「流石に噛みすぎでしょ。もしかして南沢さん自傷行為とかしたい人ですか?それかM?」
「んなわけあるか、口寂しいだけだろ。多分」
そういうものでしょうか、なんて呟いてるあたり、あまり納得していないらしい。つか別に指がなくなる訳でも無しに、神童が気にすることじゃあないだろう。
「口寂しいって、普通飴とかガムとか食べません?飴なら持ってますけど」
「いい。飴とかガムとか甘ったるいし、口ん中ベタついて気持ちわりーから苦手なんだよ。煙草なんか論外。なら指のがいいだろ」
「そのうち千切れますよ」
「こう見えて、俺は肌丈夫なんだよ」
「むしろ肌が弱いなんて有り得無さそうな感じですけど」
それきり沈黙が続く。
ちらりと神童を盗み見ると、爪を噛みながら雑誌をパラパラ捲っている。せっかく綺麗な爪をしているのに、先の方は見事にガタガタだ。
人のことを言う前に、自分の癖を直したらどうなんだと、言いそうになったが止めた。どうせ、俺が直さないなら、俺も直さないみたいなことを言われるに違いない。神童は存外に面倒くさい。
けれども、あれは流石に止めた方が良いだろう。なら、面倒だが直してやるとするか。
「なあ神童」
「なんですか?」
「この癖止めてもいいぜ、だからちょっとこっちこい」
神童を手招きすれば、いそいそと先ほどから座っていたベッドから腰を上げる。
「なんですか?南沢さ…んん?!」
神童が言葉を発するのをやめた理由は簡単、俺がキスをしたから。
ただ触れるだけの優しいものだけれど、こいつとするのは凄く気持ちの良いものだと思う。
何度も角度を変えてみる。触れ合った唇から、微かに脈を感じた気がした。
何やら神童が言いたげな風だったので、名残惜しいが仕方なく唇を離す。
「いつもキスするときは言ってくださいって言ってるじゃないですか!」
「ディープキスの時は言ってやってるだろーが」
「普通のキスだってキスには変わりないんですよ!」
「なあ神童、俺はお前とキスするのは好きだ」
「嫌いなんて言ってませんよ」
「だからさ神童、口寂しくなったらキスしてもいいか?ついでにお前の爪噛む癖直せ」
「どうせ拒否権なんて無いくせに聞かないでください。…人が居ないところなら、良いですよ」
「なら今は良いんだよな」
ふっと笑えば、仕方がないと言わんばかりの表情をする。
「良いですよ、敦志さん?」
口寂しい南沢先輩
二人が居るのは多分南沢先輩の部屋