神童と俺は小学からの仲だ。勿論友人として。
一緒に街を走り回ったり、探検したり、なんてのは少し前に止めてしまったけれどつまり、普通の友達なんだ。
サッカーしたり、登下校一緒にしたり、互いの家に遊びに行くなんてのは今も変わらず継続中な訳だし。
つまり世間一般でいう友達よりちょっと仲がいい程度。
なんだけど、他の友達同士の奴らがしないような事を俺ら毎日欠かさずしてきた。

まあ所謂あれだ、キス、接吻。
もちろん唇と唇をちゃあんとくっつけて、だ。(アメリカとかだと普通みたいだけど、生憎ここはジャパンなので)普通じゃないと思う。思うって言うか、普通じゃない。
最初にしようって言い出したのは、どっちだったか。
確か小4のとき、たまたま俺ん家の居間でみてたドラマのなかにキスシーンが出てきたんだ。それで神童が真っ赤な顔させてるから意地悪して聞いてみたんだ。

「神童はキスしたことないの?」
って。

そんなのマセてるやつでもないかぎり、するような年でもないからまだに決まってる。俺だってしたことなんかない。
それなのにあいつは、そんな俺の考えを見事に打ち砕いてくれた。暫くちらちらとこちらを見てきたかと思うと、控えめに頷いてみせた。
流石にビックリして、マジ?と聞き返してみると、やはりコクリと頷いた。

「誰と?」
「3組の子。名前忘れちゃったけど、いきなりされた」

話を聞く限りでは、自分がしたかったからとかじゃないんだと、少しだけホッとしたのを覚えている。その時はなんでホッとしたのか分からなかったけれど、今ならなんとなく理解出来る。
それと同時に、胸の辺りがもやもやとする。
俺だって神童としたいのに。なんて思ってしまった。
そう思ってしまったが最後、どうしても神童の口元へ目線がいってしまう。そして神童のそれに自分のそれを重ねた。
今では考えられないくらい大胆だったと思う。

その後の事はあまり覚えていない。ただ、それ以来周りの目を盗んでは、神童とキスをするようになった。
そしてそのたびに、二人だけの秘密な。なんて言ってた。
でも流石にもう中学に上がったわけだし、そろそろ止めなきゃいけないと思い始めてきた。小学生の時と違って、今はそれの意味だってハッキリとわかっているんだから。
けれども、今更これを止めることなんか出来そうに無かった。習慣化してしまったのは勿論だけれど、それ以上に、俺は神童の事を恋愛対象として好きになってしまったから。だから止めようなんて、ずっと言わないつもりだったのに。

「もう止めよう、霧野」

一瞬神童が何を言ったのか理解出来なかった。

「小学校の時とは違うんだ。俺らはもう、遊びなんて言ってごまかせる年じゃなくなった」

その言葉を聞いたとき、頭を鈍器で殴られたみたいな衝撃が走った。
別にもう止めようと言われたことがショックだったからじゃない。
神童の言葉が嘘なのだと気がついてしまったから。…神童が、自分以外の誰かを好きになったのだと気がついてしまった、から。
俺はまだまだガキだから、そんなこと簡単に認められるはずなかった。

「いやだ」

神童の瞳が揺らぐ。
動揺したいのはこっちだっての。

「なんで」
「俺は止めたくない」
「だってもう、そんな」
「ガキじゃねーからって?ガキだよ、俺たちは」
「きりの、」

どうしても止めたいらしい。
なんでだよ、ずっと俺が一番だったじゃん。いつもそばにいて、一緒に遊んで、笑いあって、誰よりも優先してくれたじゃんか。
「今更になって、ズルい。ズルいよ、神童」
「霧野、俺は」

何も言わせない為に、神童を抱き寄せ、いつもと同じ様にキスをした。途端に、涙が溢れたことは仕方ないと思う。

「神童、俺は神童のこと、ずっと好きだよ」

神童の顔を見ないまま、背を向けて走る。
キスなんてしなければ良かった。だって、そうすれば、既に神童は俺以外の誰かのものになってしまっていたことに、気がつく必要も無かったはずなんだから。



(いつもと同じそれは、涙の味がした気がした)




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