軸は小説



ああ苛々する。

その理由は十中八九今オレの目の前で黙々と読書にいそしむ彼、バダップ・スリードのせいだ。
別に鼻のことで恨んでいる訳じゃない。確かにあの時鼻を砕かれたのは悔しいが(治ってもなおあの痛みは忘れられない)、今はそのせいで苛立っている訳ではない。

「全く、君らしくない」

ぽつりと呟けば、それにバダップが反応し、顔を上げる。

「ミストレーネ」
「ミストレでいいよ」
「何故先程から俺を見る」
「いやだなー、見てないよ」
「ずっと此方を見ていただろう。何か言いたいことでも有るのか」
「まったく、感が良いのも考え物だね」

くすりと笑う。バレないと思ってはいなかったが、以前より明らかに反応が鈍い。
これが少し前であれば視線を感じた後、直ぐにでもバダップに首筋なり目なり急所を狙えるような姿勢をとるっていただろう。

バダップがおかしくなったのは、ミッションを失敗に終えたあの時からだ。
過去から帰還した後、不思議とお咎めも無しに解放されまた以前と同じように学園生活を過ごしている。
このミッションは秘密裏に行われたのだ。無闇に罰を与えでもしてこの事が公になれば、いくらヒビキ提督の地位が高くとも非難が起こることなど目に見えている。
そんなこともあり、別段何事もなく過ごしている。が、何故だかバダップが今まででは考えられないほど隙だらけだ。というかずっと何かを考えている。

「サッカーでもやりたいのか」

あのミッション以来、ここの大人達はサッカーという単語に前以上に敏感になったと思う。
現に今オレのことをちらちらと見てくるやつがいる。(取り巻きの人達は別として)
しかしバダップは眉一つ動かさない。つまりこれじゃないってことか。

「何故いきなりサッカーの話になる」

ほらやっぱり。そうなると残りの可能性は一つ。

「じゃあ、円堂守に会いたいのか」

これには分かり易いくらいの反応が返ってきた。
ピクリと小さく身体を震わせ、ほんの少しだけ表情が焦る。
これがバダップのことを何も知らない奴なら、全く気がつかないだろうが、お生憎オレはこのミッションの間ずっと一緒に過ごしていたんだ。これくらいなら分かる。勿論最初の頃は全然分からなくてお手上げ状態だったけれど。

「何故、円堂守なんだ」

お、少し動揺している。

「だって君を負かしたのは後にも先にも円堂守ただ一人だ。気になるんじゃあないのかい?」

そう言えばバダップは暫し沈黙する。
図星か。


幾らか時間が過ぎた後、漸くバダップは重い口を開けた。

「ミストレーネ」
「ミストレ」
「…ミストレ、君にだけは話しておく。いや、話したい」

何故だか先程の様子とは違う、何かを秘めた表情をしている。

「あのミッションが失敗したが、特にお咎めは無かっただろう」
「ああそうだね」
「だが正確には今まで無かっただけに過ぎない」
「どういうこと?」
「どの様な罰を下すのか決めかねていただけだった」

背筋をヒヤリとした何かが伝う。そんなオレの様子を見て、バダップは訂正を加える。

「罰は何もない。君達は」

その言葉にほっとするのも束の間、少しの違和感を感じた。

「君達って何?それって君自身は入っていないということかい?」
「ああそうだ。俺は罰を受ける」

それを聞いた瞬間、自分でも驚く程の速さでバダップに掴み掛かっていた。
バダップは抵抗もせず、大人しくしている。

「どういう事だよ」
「そのままの意味だ。俺は罰として過去へと飛ばされる」
「何勝手に決めてんだよ!失敗したのはオレ達の所為でもある!君一人が罰を受けるのは筋違いだ。誰だそんなこと決めたのは!!ヒビキ提督か?バウゼンか?」
「違う」
「だったら!」
「俺がそうなるよう頼み込んだんだ」

ふと力が抜けるのを感じた。そのまま倒れそうになる体をなんとか支える。
バダップは相変わらず直立不動のまま動かない。

「馬鹿か君は」
「そうかもしれない」
「何で、そんな…」
「ミストレ」
「オレ達じゃ役不足だって言うのか」
「有り難う」
「バダッ…」
「さよならだ」

くるりと踵を返し、ゆっくりと歩き出す。その後ろ姿を追うことも出来ず、ただ呆然とするしかなかった。





貴方の期待する言葉も掛けられない
(だってオレはとんだ臆病者なんだから)









王牙にハマった勢いだけで書いた文
なので色々おかしい
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -