凉野と南雲は同棲中


チョコをくれと言われていたんだ。
忘れていた訳じゃない。一応手帳にメモしていたから。ただ少し面倒だっただけだ。

「明日か」

訂正。物凄く面倒。
というかバレンタインなんて、男から贈るものじゃない。
(例え海外では男から贈ることが当たり前だとしてもだ)

「そもそも私は料理が苦手なんだ。晴矢はバカなのか?」

ブツブツ呟きつつも、チョコレート作りに取り掛かる私も私か。
作るのは以前、倉掛や凍地から教えてもらったトリュフチョコ。なんでも不器用な私でも簡単に作れるとの事だ。誰が不器用だ。
作り方を書いた紙を片手にいそいそと作業に取り掛かる。

「えーとまずは、チョコを刻むのか。むう、難しそうだ」

取り敢えず適当に切っていく。少し大きい気もするが、気にしたら負けだそんなもの。

「次に…」

着々とリュフ作りが進んでいくように見えた。がしかし、そう簡単にはいかなかった。


「…なんだこれは」

そこにあったのは、トリュフとは程遠いなにか。
試しに口に含んでみれば、焦げ臭いような味がした。

「なんでチョコレートが焦げ臭いんだ。あれか、面倒だからと火に直接掛らか?」

というかそれだろう。面倒がらなけれは良かった。
一応失敗したときのために、沢山材料を用意していたので、まだチャンスはある。
晴矢が帰ってくるまであと2時間。

「ふっ、やってやるさ。不器用などと言う汚名を晴らしてやる!」

そして、新たにトリュフ作りに挑んだ。




がちゃりと、扉の開く音に、思わずびくりとする。

「もうこんな時間か」

結局2時間かけても、まともなものは一つとして出来なかった。

(私は、こんなにも不器用だったのか)

その事実に少なからずショックを受けつつ、取り敢えず晴矢にバレないように静かに残骸を片付ける。

「ただいまー。おーい、風介ー?」

段々と此方に近づく足音。
やばい!
そう思い焦ってしまった結果、チョコレートの入ったボールを落としてしまった。
カラン、と乾いた音が辺りに響く。

「何してんだ?」

ああ、バレてしまった。

「すまない。直ぐに片付ける」
「これ、チョコレートか?」
「悪いか。どうせ全部失敗作だ」
「作ってくれてたのか」

少し驚いたような顔をされる。その様子についイラッとしてしまう。

「貴様が作ってくれと言ったのだろうが。いいからどけ。片付けられない」
「いや、くれとはいったけど、まさか作ってくれるなんて。買ってくれても良かったんだぞ」

その言葉に、とうとうぷつりときた。きてしまった。

「なんだ、それ」
「風介?」
「どうせ私には無理だと言うのか。ああそうさ、私には所詮無理だったんだ。買ってくれても良かった?頑張って、晴矢が来るまでにはと思って変に意気込んで失敗して。バカみたいだ。笑いたければ笑えばいいじゃないか」
「風介、」
「いいから退け。片付けの邪魔だ」

流石に言い過ぎかとも思ったが、なんだかバカにされたような気がして腹の虫が収まらない。

黙々と片付けていると、晴矢がチョコレートを一つ手に取った。確か上手く丸められなかったものだ。
それを口へと運ぶ。

「美味いじゃんか」
「は?嫌味か」
「お前、味見しなかったのか?美味いぞこれ」

そう言って無理矢理チョコレートを押し込まれた。
口の中にチョコレートの味が広がると共に、自分でもわかるほどだった不機嫌顔が、みるみる緩んでいく。

「美味い」
「だろ!確かに形は歪だけど、美味いぜ」
「歪は余計だ」
「でも美味いんだからいいじゃねえか。ありがとうな、風介」

わしわしと髪の毛を思いっきりかき回される。
文句のひとつでも言おうかと顔を上げると、其処には満面の笑顔の晴矢がいた。
ああそうか、私はこの笑顔が見たくて。

「また来年も作ってくれよ」
「気が向いたらな」
「よろしく頼むぜ」



ハッピーバレンタイン!
(あ、ホワイトデーには、五千円以上のものを要求する)
(てめ…!)



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テーマ「人外ファンタジー」
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