吹雪は雷門中の生徒


「3組の男子で、風丸のこと好きなやついるらしいぜ」

そんな噂が流れ出したのはいつだったか。
それまでも1組の誰ちゃんと付き合っているだの、4組の女子の間でファンクラブが出来ているだの根も葉もない噂ばかり流れていた。が、今回はそれよりも質が悪い。
俺だって男子なのだ、それは即ち同性に好かれているということになる。
最近噂話があまり無かったことも手伝い、ゴシップ好きの友人の間であっという間に広まってしまった。

「どうすんだろ風丸」
「やー、でも風丸って美人じゃん。良いんじゃね」
「もしかしてこのまま名も知らぬ彼とでランデブー!?」
「いやいや、男のプライドが廃るでしょ」
「しかしかなりのイケメンとの噂だ」
「まじかよー」

そんなやつらは大抵どのクラスにもいるらしい。本人を目の前に大声でその話題に触れる辺り、からかい半分面白半分なようだ。
現に反応が気になるのか、こちらをチラチラ見てくる。

「なあ、どうなんだよ風丸」

なんの反応も無いのがつまらないのか、とうとう本人に確認をとろうとする。
先程まで大声で話していたために、他のクラスメートも気にしない振りをしつつ、ちゃっかり聞く耳をたてていた。

「嘘に決まってんだろそんなの」
「でも結構信憑性高いぜ?しかもサッカー部員って噂だ」
「んなわけあるかよ。第一、俺が好きなんてやつセンス無いだろ」

その言葉に、少し傷ついたような顔をした人が若干名。流石に言い過ぎたかもしれない。
けれども、本当に俺なんかを好きになるやつなんか居るのか分からない。居たとしても、そいつはきっと俺の事をちゃんと知らないんだ。

「でもお前モテるじゃんか」
「モテた時期なんかないよ」
「風丸君」

いきなり頭上から声が降ってくる。見上げれば、吹雪が俺の前に立っていた。

「ちょっといいかな?」
「なんだよ吹雪」
「部室の方まで来てほしいんだ」
「ああ、部活の事か」

そのまま歩き出した吹雪に着いていく。正直助かった。あのままだったら間違いなく俺は切れてただろう。
別に同性愛に嫌悪するわけではないが、自分自身はノーマルだ。ただでさえ一度だって女子と付き合ったことすらないのに、それなのに男と噂なんて冗談じゃない。

「ねえ風丸君。風丸君って結構酷いこと言うね」
「聞いてたのか」
「御免ね。聞こえちゃった」
「まあ結構声大きかったししょうがないだろ」
「ねえ風丸君」

ピタリと足を止める。
そこは部室近くの木の陰だった。

「ヒント1」
「は…?」
「僕はどうして風丸君のクラスに来たんでしょう」
「そんなの部活の事で用が、」
「ヒント2。僕は今、さっきの会話のせいで凄く悲しいです」
「吹雪?」
「ヒント3。僕は3組で、サッカー部の所属です」
「…」
「最終ヒント。…キスして良い?」

まさかまさかまさか。先程の会話を思い出してみる。

『3組の男子で』『サッカー部員って』『かなりのイケメンとの』『センス無いだろ』…

「まさ…か、」
「正解だよ、風丸君」

唇に柔らかいものが押し当てられる感覚。けれど不思議と嫌じゃなくて。

「僕さ、結構センス良いって言われるんだよ」

未だに呆けている俺に、再びキスをする。

「僕のものになりなよ」

そしてふわりと笑う。
いつもなら和むその笑顔に、ほんの少しの恐怖を感じた。





うちの吹雪はこんな感じ
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