「なあ風丸ー」
「次、ここのxを5で掛ける」
「風丸ってば」
放課後の教室、殆どの生徒が下校したり部活に向かったりして、今は俺と円堂しかいない。
何故こんなことになったかと言えば、こいつが授業中居眠りしているせいだ。そしてこのままじゃ駄目だという教師の有り難くない意気込みにより、円堂のみに特別にプリントを用意された。俺は教師兼見張りとして抜擢されてしまったというわけだ。つまりはとばっちり。
その原因である円堂はといえば、さっきから俺の名前を呼ぶだけでちっとも手を動かそうとしない。
畜生、部活時間返せ。
「…なんだよ、口を動かす暇があるんなら問題といてろよ」
「チューインガム食うとキスが上手くなるって本当かな」
「………っ、げほっげほゲボッ!」
いきなり何を言い出したかと思えば、キスの話だった。衝撃的すぎる内容に、思いっきり噎せる。
「〜〜〜、円堂が……キ…ス…?」
「何だよー可笑しいか?」
あの恋愛事とは凄まじいまでにかけ離れた円堂から、まさかキスの話をもちだされるとは思ってもいなかった。
「そうか円堂にも漸く春が来たってことかぁ。あのサッカーバカの円堂もやっと青春を謳歌しようって気になったわけかなるほどなるほど」
「?なにワケわかんないこと言ってんだ」
ああ、これが親離れしていく子供を送る気分か。なんて。いや、確かに何処と無く弟みたいに扱っていたことも多かったっけなあ、昔は。
しかし円堂が恋か。
「というわけで、キスして良い?」
「あー、うん……ん?」
何か会話が可笑しかったような気がする、なんか聞こえたぞ空耳が。いや聞こえて無いぞ俺は。
「すまん円堂、もう一回言ってくれ」
「だぁかぁらぁ、キスしたいの!俺が、風丸に!」

…聞き間違えじゃなかった。

「円堂、俺男だからな」
「そんなこと知ってる。どうしたんだよいきなり」
いきなりはそっちだろうに!物凄い爆弾落としやがって!
そうこうしている間にも、ジリジリと近づいてくる円堂の顔。もう少しでキスされる、というところで、ピタリと動きを止めた。その代わりにじっと見詰められる。
「風丸は嫌?」
「なんで俺なんだよ」
「なんでだろうな」
まさかの返しに少々、いや多大に戸惑う。どう返事するべきなんだろうか。
「しても良いって言ったら?」
「する」
「駄目って言ったら?」
「それでもする」
どっちにしろするのかよ!
ええい、こうなりゃ男らしく腹をくくれ風丸一郎太!きっと同性ならファーストキスとしてカウントされまい!
それに、今ここには誰も居ないわけだしな!別に自棄になんかなってないぞ!
「したいならしていい」
「…まじ?」
「まじまじ大まじ」
なんだか凄い笑顔だ。
俺とキスすることがそんなに嬉しいのか。いや本当ワケわからない。
「じゃあ、いくぞ」
「ああ」
ゆっくりと顔が近づく。もともと近かったのだから、こう一思いにぱぱっとやってくれれば気が楽なのに。何故そんなに焦らす?ああ、こっちまで緊張してきた。
「本当にいいんだな」
「良い」
その言葉にニコリと満面の笑みを見せたかと思えば、思いっきり唇を押し付けられた。
「いっ……つ、!」
いきなりの衝撃に唇が痛い。まあでもこれで解放される。てっきりそう思って油断していると、そのままぬるりとした何かが入ってくる。

こいつ、舌入れてる!?

何とか唇を引き剥がそうとするが、上手く力を入れることが出来ない。
「え…んゃ、んん…」
「風丸」
息!息が!
主導権を握っている円堂は余裕そうだが、俺はとにかく苦しかった。息の仕方がわからず、なんとか円堂の胸を叩いて引き剥がそうとするも、力が上手く入らない。
漸くキスから解放される頃には、立つことすら儘ならないほどフラフラになっていた。
「気持ち良かった?」
「んなわけあるか!苦しいったらねえよ!」
「鼻で息するんだぞ」
「なんでそんなこと知ってんだよ!」
まだ彼女も出来たこと無い俺にキスの経験あると思ってんのかこいつは!
「あ、もしかしてファーストキス?」
「もしかしなくてもな」
もしかして円堂は経験済みなのだろうか?そう考えると、なんとなくモヤモヤする。
もしそうなら、幼なじみなんだし教えてくれてもよかったじゃないか。
「安心しろって、俺もファーストキスなわけだし」
「嘘つけ!なら何であんなキス出来んだよ!」
「ちょっとやってみたくて」
「つまり俺で試したのか」
皮肉混じりに言ったその言葉に、円堂の顔が強張る。
「お前本当にそう思ってんのか」
「え、いやだって…」
「俺は、こういうこと風丸にしかしたくない」
…つまりどういうことだろうか。
「俺は風丸が好きってこと」
はあー成る程。俺のことが円堂は好きなのか…。
「はあああ!??」
「風丸って結構ベタなことするよな」
「いやいやまて話がわからない!俺が好きってそれ友愛じゃないんか?!恋愛での好きなのか!」
「うん」
「うんじゃねー…いや、はぁ、もういいや」
「なあなあ風丸。俺結構キスするの上手い方だと思うんだよな。だってガム膨らませるの上手いし」
「そこで話を戻すのね」










「というわけでもう一回」
「やらん!」



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