どうも俺は“死”というものに、他人よりも恐怖を覚えるらしい。



まだ俺が4歳のときに、お祖父さんが死んだ。
棺桶に入ったお祖父さんが生前のしわくちゃな姿のまま収められた様は、何処か人間とは違う何かに見えてならなかった。
皆が悲しげに泣く中、俺だけは独り泣きもせずただ突っ立っているばかりだった。そんな俺を見て母さんは、まだ貴方にはわからないのねって言っていたけど、いくら幼いからと言って、もうその人が動かないことくらい簡単にわかる。

そこまではいい。

人は死んだら最後だという言葉は、ずばり的を射ていると思う。
生きていれば、どんなに嫌われものでもその存在を示すことができる。生きているうちはその人の記憶に嫌でもはっきりと埋め込まれる。
けど、死んでしまえば有名人でもない限り、いずれ忘れられてしまうのだ。


俺はそれが怖かった。

死ぬことよりも、独りになることが怖かったんだ。

そして、また俺の身近な人が一人いなくなってしまった。
結局あの人は、本当に救われたのだろうか。


確かにあの人の死は、自分にとってとても大きなものだった。
けれども俺はあの人を死ぬまで覚えていられるだろうか。


「大丈夫、俺が覚えているから」

ぎゅうっと抱き締められる。それが窮屈に思えて、おもわず腕で押し返した。
こんなことしたってあの人は戻ってこないのに。

「フィディオ?」
「マモル、苦しいよ」
「ん、ああごめんフィディオ」

マモルは覚えてくれるといったけれど、それだって不謹慎な話、マモルも俺も死んでしまったら覚えている人なんかいなくなってしまう。
結局は無意味なことなんだ。

こんなの俺らしくないってわかっているけれど、それでもこの恐怖から逃れる術を未だに見出だせていないのが現状だった。

こうして抱き締められているのに、心に植え付けられた恐怖は簡単に消えてはくれないようだ。


「ダメだな、俺。こういうときに俺がしっかりしないといけないのに」
「そんなことない。フィディオはよくやったじゃないか」
「でも、俺はあの人になにもしてやれなかった」


同情なんか、慰めなんかいらない。
けれど突き放されたくもない。

こういうとき、甘えるのが一番いいのかもしれないが、生憎俺はそこまで素直なわけではないから泣いてすがりつくことさえ難しい。「なんでも一人で背負い込もうとするな。お前には俺がいるじゃないか。チームメイトだっている。皆お前のこと心配してたぞ」

知っているよ。
だから嫌なんだ。何もかも。

「いっそうのこと、消えてしまえればどれだけいいだろう」

そう呟いて彼の顔をちらりと見た。
俺には、彼の表情から感情を汲み取ることが出来なかった。
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