「風丸、ペンギン好きだっけ?」


珍しく午前中に練習の無い日、俺の部屋へとやって来た円堂はそう告げる。
質問の意味がわからず首をかしげる。

「だって風丸のもってるキーホルダーとかシャーペンとかタオルとかペンギンだらけだぞ?」

昔そんなに持ってなかったじゃんか。
そう言いながら円堂は部屋をあちこち荒らしていく。
それはいつものことなので、もう気にしない。

ちらりと自分に割り当てられた部屋中を見渡してみる。確かに昔と比べたら増えたかもしれないが、

「そこまでじゃないだろ…」
「いーや、スッゲー増えてる!」










「、てことがあったんだよ」
「そうか」

午後練の休憩時間、鬼道に午前中にあったことを話す。あのあと円堂と増えた増えないのちょっとした口論になったりもしたのだが、それは置いておく。

「鬼道もそう思うか?」
「確かに少しは増えたんじゃないのか」
「変だな。俺ペンギンよりイルカのが好きだったはずなのに」
「…」


何も言わない鬼道。
あれ、別に変なこと言ってないよな?


「知っているか風丸」
「…何を」
「長年付き添った夫婦は、似通ってくるらしい」
「はぁ?夫婦!?」
「だが、夫婦でなくともそうなるんだな。お前、佐久間と付き合っているんだろう」


いきなりの鬼道の爆弾発言に、思わず飲みかけのボトルを落としそうになる。

「いつから…」
「付き合い始めた辺りからだな」

結構早い時期からじゃないか。それ。
思わずガックリと項垂れる。

確かに俺と佐久間は所謂恋仲ってやつで、確か向こうから告白してきて自然と恋人になっていたって感じで今に至る。そのときに、確か誰にも言わないとか約束したはずだ。
しかし鬼道にバレていたらしい。もしかしたら他の勘の良いやつに気づかれているかもしれない。


「じゃあ佐久間の影響だってのか」
「そういう事だ」

確かに佐久間はペンギンが好きみたいだし、そういうのを貰っているし、あり得ない話ではないのかもしれない。


「隠したいのなら、もう少し慎重になることだな。まあ無駄かもしれないが」
「なっ、それどういうことだよ!」

意味深げな言葉を残して、さっさと円堂たちの方へと行ってしまった。
何だったんだいったい。
今日はやけに首をかしげる日だ。
と、背後に感じる人影。
振り返れば、そこには先程まで話題の中心にいた人が立っていた。

「ああ佐久間丁度いいところに、」
「風丸ちょっと」
「うわっ!」

いきなり腕を引っ張られ、ぐいぐいと人気の居ない方へ連れていかれる。

「佐久間?」

返事はない。
もう一度名前を呼ぼうとしたところで、肩をがしりと掴まれる。


「なあ風丸、円堂と二人で居たって本当かよ」
「え、ああそうだけど」
「マジか…やっぱり幼なじみだししかたないとは思うけどさぁ、なんで二人っきりなんだよ」

ハァ…と溜め息をつかれる。
何なんだいきなり連れてきたかと思えばそんな態度。流石にこれにはムッとしてしまう。

「別に誰と居ようが関係ないだろうが」
「そんなわけあるか!」
「さ、佐久間?」「風丸は危機感が無さすぎるんだ!もし何かあってからじゃ遅いんだぞ!」
「そりゃわかってるけど、」
「わかってないだろっ!俺だってまだ二人きりで部屋なんてシチュエーションまだ体験したことないのに!」

…佐久間はこんなキャラだっただろうか。いや、知らないだけで本質はそうなのかもしれない。

取り敢えず佐久間を落ち着かせる。本気でこいつ大丈夫か。

「別にやましいことなんかしてないんだから、気にしなくてもいいって」
「じゃあ、何してたっていうんだよ」
「ただ話してただけだから。そういえば、」

ふと先程の鬼道の台詞を思い出す。

『長年付き添った夫婦は』
『夫婦でなくとも、似てくるものなんだな』
『もう少し慎重になることだ』


「〜〜!!」

途端に真っ赤に頬が染まる。いきなりの俺の変化に、佐久間は驚く。

「どどどどどうしたんだ風丸!」
「なぁ佐久間…」

真っ赤な頬を隠すように俯きながらズルズルと座り込む。

「どうしよう、俺気づいちゃったよ。何これスッゲー恥ずかしい」
「え、何が?」
「だって」


以前佐久間は、紅い色が好きだと言っていたにも関わらず付き合う前と比べて蒼いものが多い。
それは、俺が一番好きな色。そして俺は俺でイルカが好きなのに増えていくペンギン。
そう、つまりそういうこと。


「互いに影響されてたってわけか…」
「だから何が?」
「これじゃバレんのも当たり前だろうが」


敵は身近にいるとはよく言ったものだ。
取り敢えず勘の鋭そうなやつから、片っ端にといただす必要がありそうだ。







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