「あ」
移動授業のため綺麗に片付けた筈の机の上に、無造作に教科書が置かれていた。
裏返しのそれをめくって見てみれば、1時限目に円堂に貸していた教科書だった。
恐らく返そうとしたら居なかった為、仕方なく教科書だけ置いていったのだろう。
「つか、鍵開いてたのかよ」
移動授業のとき、日直が毎回教室の鍵を閉めなければいけないことになっている。
しかし教科書が置いてあるところをみると、うっかり閉め忘れたのだろう。まったくしっかりしてほしいものだ。
とりあえず教科書を机にしまおうとしたとき、ふと先程まで教科書で見えなかった机の面に目が止まる。
そこには大きな文字で「thenk you」と鉛筆で殴り書きされていた。
「eじゃなくてaだろばか。…つか直接言えっての」
思わずクスリと笑みがこぼれる。
そしてちゃんと英語を教えこんでおかなければと、一人心に誓った。