瞼の裏に映る景色(双忍)


星降る夜にの設定と同じです








夏の夕暮れを歩く僕らの影は、長く向こうまで続いている。
通い慣れた通学路は、コンクリートに覆われ季節というものをあまり感じられないけれど。
それでも三郎と二人歩くこの道が、僕は好きだった。

いったい後何回この道を通るのだろう。
楽しいことばかりではなかった。辛いこと、悲しいこともあった。
そして幸せだった。

ふと立ち止まる。
僕が止まったことに気づいた三郎が、不思議そうな顔でこちらを見てくる。

その光景に、僕はなんだか懐かしく感じた。
たしか前にもこうして、

「ねえ三郎」
「どうした雷蔵。忘れ物か?それなら急いで」
「僕は何かを忘れてしまってる気がするんだ」
「…なにかって?」
「わからない。けど忘れちゃいけない何かを…」

前にっていつの話だ?
高校?中学?小学?
違う。もっと昔。
でももっと昔なんて、僕らは出会ってすらいないじゃないか。

本当に?どこからか声が聞こえた。
途端にバチリと目の前に広がった情景。
目の前には着物を着て、長い髪をした男。男の背景には建物一つ無い大パノラマの夕焼け空が広がる。そして男と二人太陽へと歩いていく。

誰だっただろう。
誰かに似ているような。


「−三郎?」


またバチリと風景が変わる。
いや、元に戻ったと言う方が正しいか。
目の前には、心配そうにこちらを見る三郎の姿。

「またか?」
「そうみたい」

へへへと笑えば、呆れたような表情をつくられる。
そう。これはよくあること。
そのタイミングはマチマチで、時間もその時によって短かったり長かったり。
僕は以前三郎に、この時どんな様子なのか聞いたことがある。三郎が言うには、まるでどこか遠くを見ているみたいなんだそう。しかもこの時の僕は、押しても引いても反応を示さないらしい。

そしてその時間が終わると、そのとき考えていたことを忘れてしまう。

「頼むから横断歩道とかでならないでくれよ」
「わかってるけどさ、不可抗力だよ。僕にだってよくわからないんだから」
「そうかもしれないけど、危なっかしいったらないよ」
「ごめんね三郎」
「別に謝るほどのことじゃないだろ」
「ごめん」

微妙な空気が流れる。
互いに言葉を発せず、ただジッと目を見る。
しかしそんな状態をいつまでも続けられるわけはなく、最初に折れたのは三郎だった。

「いいから帰るぞ。遅くなったら雷蔵の親が心配する」

くるりと此方に背を向け、急ぎ足で歩き始める。
やっぱり見たことある景色。
けれども今度は止まることなく、三郎のもとへと駆けていった。



その景色はまだ遠い






‐‐‐‐‐

補足というかなんというか


以前書いたものよりも時系列としては前だと思います
多分…
思い出しそうで思い出さない雷蔵と、そんな雷蔵にハラハラする三郎の図
思い出して欲しくないからではなく、単にそのまま事故に遭わないか心配なだけです



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