現代伊作と室町留三郎(留+伊)


 戦国時代だとか室町時代だとかそういうものは、当たり前だけど教科書の中でしか知らなくて、それはこの平成に生きる人間であれば当たり前の話。
 …だったはずなんだけど。




「お前、一体どこの者だ?伊作をどこにやった?」

 ハイスミマセン意味がわかりません。

 というかこの現状がすでに意味わかりません。
 今の僕の状況を端的に述べるならば、土の中だ。そりゃもう言葉のまま。
 そんな僕は正直土の中に入った記憶がない。気が付いたらこうなっていた。
 地表に手が届かないほどの深い穴とか、下手すりゃ死んじゃうだろ。
 でもおかしなことに僕は全くの無傷なのだ。

 そしてさっきから上から僕を見下ろす彼だが、助けるでもなく先程の質問を投げ掛けてきた。なんなんだよもう。
 その伊作ってのがもしも善法寺伊作を指した言葉なら、僕がその伊作なんだけど。
 まさか善法寺伊作ー、なんて変わった名前の同姓同名の人間がいるとは思えないし…。

「なんとか言え」
 ていうかなんかこの人同じクラスの食満君に似てるんだよねー。
「おい」
 いやでも僕の知ってる食満君はもっと優しいよなぁ、こんな恐い顔しないし。
 まあ確かにちょっと短気な所はあるかもだけど。
 例えば潮江君とか潮江君とか潮江君のせいで。
「聞けよ曲者!!」
 というかなんで彼はヌンチャクみたいなものを構えているんだろう。なんでそんな忍者みたいな格好なんだろう。てか曲者ってなにさ。
 まあいっか。

「えっとですね、僕は伊作って言います。善法寺伊作。大川高校一年生です。父は町医者で母は看護士ですね。はい、僕は名乗ったのでそちらも名乗っていただきたいです」
「食満留三郎。忍術学園六年は組で用具委員会委員長…って違ーう!なんで俺が曲者に名乗らなきゃいけねーんだ!」
 これがノリツッコミというやつか。
 しかし食満留三郎ってこれじゃまんま食満君だよね。
 もしかしてこれって僕が寝ぼけてるだけなのかな?
 試しにほっぺたを抓ってみる。分かってたけど痛くなるだけだった。
 じゃあこれは現実?いやいやまっさかー。
「まあいい。大人しく捕まりやがれ曲者」

 だから曲者ってなにさ。

 そうして僕は簀巻きにされ海に投げ捨てられた。嘘。ぐるぐるに縛られただけ。
 食満君(仮)はなんかナワヌケがどうのこうの言ってるけど、僕にはよくわからなかった。
 とりあえず良くないことが起こることだけは分かった。
 なんたって僕は不運委員長だからね。




 そんななんやかんやがあり、ここで一番偉いのだという学園長に、滞在許可を貰った。
 意味がわからないって?
 僕にもよくわからない。

 なんか食満君(仮)が学園長にあれやこれや言って、僕は質問に答えただけだ。
 そこで、どうやら自分の生きていた時代よりも昔に来てしまったことが発覚した。
 しかも室町時代だって言うから驚きだ。それって何百年も前の時代じゃないか。歴史は苦手だったからよくわからないけど。
 そしてここは忍術を学ぶ学校らしい。凄く広いし、てっきり忍者村みたいなものかと思ったよ。
 ということは食満君(仮)も学生と言うわけか。

 しかしおかしな話だ。
「おい、お前」
 どうして僕はここに来てしまったんだろう。
「聞いてんのか」
 神隠しみたいなものだろうか。というか夢を見てるだけじゃ…。
「聞けよコラ!」
「え、なに食満君(仮)」
「なんだよ(仮)って!つかさっきから話しかけてんだろ!無視するんじゃねえ!」
「あーごめん。で、なに?」
「学園長先生はお許しになられたが、俺はまだお前のことを信頼したわけじゃねえ。少しでも不審な動きをすれば、直ぐにでもお前の首を取る」
 それは所謂殺気と言うやつか。肌がピリピリするような不思議な感覚だ。
 取り敢えず一般人にそういうものを浴びせるのってどうかと思うけど。まあいいか。確かに今の僕は不審人物に変わりないし。
「うん。でも僕は特になにもするつもりないし、その心配は無用かな」
「そうかよ」
「そうだ。さっきの庵のところ、僕と君と学園長と犬だけだったよね?」
「ああ、そうだが」
「うーんそっか…」
「なんだよ!言いたいことがあるなら言え!」
「もー、あんまりカッカしてると体に悪いよ。別になんでもないから」
「…そうか」
 あれ?てっきりもっと何か言ってくるのかと思ったのに。
 それきり食満君(仮)は黙ってしまった。僕何か言っちゃったかな?

 でもおかしいな。
 確かに他に4人くらい居たと思ったんだけど。





 そのころ、残りの六年生はい組の仙蔵と文次郎の部屋で車座に座っていた。
 先程伊作が感じた気配は、まさしく仙蔵たちのものであった。
「感づかれたな。鋭い奴だ」
「的確に此方を見てきたように感じたぞ」
「ふむ…ただ者ではないらしい」
「…もそ」
「うん。どことなくいさっくんっぽかったな」
「何にしろ警戒するに越したことはないだろう」
「まったく伊作の奴、今度はどんな不運に巻き込まれやがったんだ?」
 その疑問に答えられる者は、今のこの場には居なかった。








気分次第では連作になるやも知れません
いわゆるトリップものです
ただし夢小説ではありません

当たり障りなくするつもりが、逆に怪しまれる不運な伊作くん…いいと思います



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