無条件こうふく(富数)
怪我を隠していたことが数馬にバレた。
いつも通りに迷子どもを連れ戻しに辺りを駆け回る内にできたらしい。
大した怪我じゃなかったし、何より今日は上級生が実習から帰ってくる日だから、保健室も大所帯だろうと遠慮してしまったんだ。
でもそれが不味かったらしい。
「作兵衛、怪我してるだろ。なんで保健室に来ないんだよ」
いきなり自室の扉が開いたかと思えば、そこには据えた目をした数馬が仁王立ちしていた。
「いや大した怪我じゃねえし、今日は保健室立て込んでたろうし」
「大したことないか判断するのは保健委員の役目なんだけど。ほら見せて」
がばりと体を抑えられ、有無を言わさず上着を捲られる。
怪我を見てるだけってわかっているけれど、状況が状況なだけに無意識に緊張してしまう。
「擦り傷、切り傷、ねえこの痣はなに?」
「えっと…」
言えない。
左門を見つけた安堵から油断して綾部先輩のタコ壺にハマったなんて。
いつもは数馬に注意する側だから尚更だ。
「へー、言えないの。そんなに染みる薬が良いわけか」
「綾部先輩のタコ壺に落ちたときのです」
「大方迷子をみっけてそれ以外視界に入らなかったってところかな。作兵衛ってほんと猪突猛進なとこあるよね」
「返す言葉も御座いません」
情けなくて俯いていると、バシンと背中に衝撃が走る。
顔を上げれば、笑顔の数馬がいて、内心ドキリとしてしまった。
「ってーよ」
「ほらっ背筋伸ばしなよ。僕は作兵衛のそう言うとことか好きだよ」
顔に熱が溜まっていくのがわかる。
その顔でそんなこと言われたら、そんなん照れるに決まってんだろ!
そんな俺の様子を見てか、数馬の笑顔が意地悪いものになってゆく。
「あれ?作兵衛照れてる?」
「ばっ!んなことねー!」
「ほんとにー?」
「本当だ!」
「そんなムキにならないでよー」
「なってない!」
こういうのを惚れた弱みっていうのか。
数馬にはどうしたって適いそうになかった。
でもそれはお互い様‐‐‐‐‐
こうふくは降伏、幸福お好きな方をどうぞ