それは私の役目ではない(竹←くく)


生物委員会で飼っていた狼が死んだらしい。
だいぶ年を取っていたおじいちゃん狼で、竹谷が入学する前にはすでに居たんだそうだ。

「まあもうかなりの年だったからな。寿命じゃ仕方がない」
天寿を全うできたんだ、こいつは幸せだったさ。
そういっていつもと変わらない笑顔を竹谷は見せたけれど、そんな竹谷にほんの少しの寂しさを感じた。


「いつかは俺たちも死ぬときが来るのだろうか」
呟いた言葉は、竹谷の耳にもしっかり届いていたらしい。
ぽかんと開いた口をそのままにこちらに顔を向ける。
「そんなの当たり前だろ。特に俺たちみたいな奴は死に早いものだ」
「情緒無し。零点」
「なんだあそりゃ?」
「お前そういうときは、最後の一時まで共に居てやるよ。とか、死ぬまで俺が一生幸せにしてやる。とか、気の利いたことを言うものだ。だからお前はモテないんだよ」
「お前は俺の恋人じゃないだろうが。むしろ兵助からそんな言葉が出てくる方が驚きだ」
「どういう意味だそれは」
言われてみればまあ確かにそうなのだが。想い人でもないやつにそんなこと言う奴はあまりいないだろう。
それにしたって死に早いとは、なんともまあ直球な物言いである。
「というかモテないのは兵助、お前もだろう。年がら年中豆腐豆腐と、豆腐ばかりに愛を向けて」
「傾倒するだけの相手がいないんだよ。いいじゃないか、豆腐は美味いぞー」
「それはもう知ってるから。散々お前に食わされたものな」

他愛ない言葉を投げては打ち返す。
近くもなく遠くもないその距離が心地良いから、俺は深く入り込もうとはしない。それを竹谷も分かっているから、こうして共に居てくれる。
竹谷はあの狼の死を仕方ないと笑ったが、いつもより鈍い返しに、やはり堪えていたのだと知る。
出来ることならもっと近づいて、その柔らかな内側に入り込んでしまいたいと思う。

けれど踏み出せない微妙な距離。

心地いいのは確かだ。この関係を壊したくない。
けれどもっと近づきたいのも確か。
竹谷にだったら、頼ってもらいたいのに。
そうは思うけれど、きっとこの先も踏み込むことは出来ないのだろう。

「…あまり気を落とすなよ。委員会の後輩達が心配する」
「わかってるさ」
「泣くときは俺に言えよ。いつでも胸を貸してやる」
「誰が泣くか」
知ってる。
お前は昔からあまり泣かないから。
でもそれが俺には余計辛く感じているように見える。そのことに竹谷は気づいているのだろうか。
「泣きたい時は泣くもんだ」
「うん、わかっているよ。ありがとうな兵助」
そう言って竹谷は立ち去る。
いつか彼が泣ける日は来るのだろうか。




それは私の役目ではない






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これは竹くくというかくく竹というか竹←くく
ただ友情の範囲から抜け出そうにない



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