05


 


その後、私は2、3日の後に体力も魔力も回復し、喉の調子も戻り、漸くまともに話せる状況になった。
傷口の治りも思ったより早く、たまに引き攣る様に痛む時はあるが、その表面にはしっかり瘡蓋も出来、一人で御手洗いに行く事を許される程度にはなった。

アレからグダ男とマシュに聞かされた事なのだが、あの場所はやはりあの巨大なキメラが小聖杯の力を借りて作り上げたモノだったらしく、キメラの消滅の後、森も岩山も残っていたワイバーンや数頭のキメラでさえ、跡形も無く消え去っていったと言う。
肝心の聖杯は余りにも小さく、そして持ち主が獣であった為か、酷く脆く回収が出来なかったらしい。

何故小聖杯がキメラに着いたか疑問は残る所だが、私が戦闘の途中にキメラに意識に引き寄せられた事、そしてその中で見たモノと何か関係があるのではとダ・ヴィンチちゃんとロマニに相談すれば、なるほど、と二人は何処と無く納得した様な表情をした。

二人の見解としては、これまで修正して来た何処かの特異点の内で、偶然生き残った一頭のキメラが、たまたまそこに消えるはずだった残留思念の様な残りカスの聖杯の力に引き寄せられ、結合し、今回の件に至ったのでは無いか、と言う事だった。
膨大なまでに膨らんだ宿主の人間に対する憎悪と、たった独り取り残された孤独が、複合獣の群れとして現れ、獣の無意識化にて故郷の失われた森と岩山を生成し、その副産物としてワイバーンや他の魔物達を生み出したのでは無いかと。
残留思念の様な極小の聖杯にそこまで生み出す力があるのかは疑問ではあるが、余程、宿主の願望が強かったのであろう。それに期間の短い限定的な顕現であった故に可能だったのであろう。

そして、何故私が“彼”の思念に引き寄せられたのか、それは私が“聖杯”だったからなのでは無いかと言われた。
多分私が引き寄せられたのは固有結界の様なモノで、またまた其処に現れた“強い力を持つ聖杯”に、“残留思念の極小聖杯”は本能的に魔力を摂取しようと近付き、“引き寄せられた”のでは無く、“取り込まれた”のでは無いかと。

何と無く合点が言った。

あの複合獣の王は孤独だったのだ。
こう言われて仕舞えば単純な話だが、それはとても寂しい事の様に思えた。
彼はただただ純粋に仲間が欲しかったのだろう。
たった独り残され、孤独を抱える内にいつしか其れが人間に対する憎悪に変わってしまっただけなのだろう。
その様子が酷く、酷く悲しく見えて、
そして同時に独りで立つ王に、その姿に、私は彼が重なって見えてしまってーーー



部屋で皆の様子を眺めながら、律儀に手元の懐中時計で時間を計っていたナイチンゲールが突然、


「はい!では、名前の傷に触るので今日の面会時間はもうお終いです!まだ話したい事があるのならば明日にして下さい!」


両手をパンパンと激しく叩きながら、部屋に居たグダ男とマシュ、ロマニにダ・ヴィンチちゃんを半ば強制的に追い出した。
彼等はナイチンゲールにグイグイ背中を押されながら、


「わあっあ、ちょ、あんま押さな、転けああぁーーっ?!!」

「ああ、ちょっと、彼女にはまだ聞きたい事が山の様にっ!!?」

【名前さんまた明日!】

「お、お大事に…!」


等、賑やかながら優しい声を掛けてくれた。
そして最後にナイチンゲールが、「それでは何か御座いましたら、遠慮無く声を掛けて下さい。くれぐれも御無理は為さらずに!」と念を押すように声掛けてから部屋を後にしようとし、何かを思い出したかの様に一旦足を止め、


「ああ、そうです。本来ならば貴方にも即刻退場を願いたいモノですが、今の彼女には貴方が必要ですので、大目に見て差し上げましょう。ですが、くれぐれも名前に無理をさせ、傷口を開かせる事の無いように、良いですね!クー・フーリン オルタ!!」


と、我関せずと無視を決め込み私のベッドの横に立っていたオルタに指差し、大声で注意喚起をするとカツッカツッと耳に気持ちの良いブーツの音を響かせながら部屋を出て行った。
何と言うか、看護に対する彼女の怒涛の勢いはまるで嵐の様な存在だなと思い、懸命に看病してくれるのは嬉しい反面、苦笑いを浮かべてしまった。



 


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